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取り引き(士郎side)
並んで立つと、目線はわずかに龍之介の方が高いことがわかる。
かろうじて腰ではいていたボトムを床に落とすと、鮮やかな緋色のボクサーパンツが現れた。
どうしたって膨らんだ部分の質量に目が行ってしまう。
大きさで優劣を決めたがるのは、男のサガだ。
「言っとくが、正常値だぜ?」
「……バカが。誰も聞いてない」
「負けた、って顔したよーに見えたけどなァ」
「……っ」
本当に嫌なヤツだ。
口にすることは大抵当たっていて、どこをどんな風にえぐれば相手に一番ダメージを与えられるかを熟知している。
仮にも惚れたというのなら、少しはやさしくしろと思ったが、その思考自体が終わっている気がして、げんなりした。
この男にかかると調子が狂う。
平静を保てず情けない自分ばかりが顔を出し、ひどく疲れた。
はぁ……とため息をついて背を向けると、
「……待てよ」
引き止められた。
嫌な予感しかしなくて、あえて聞こえないフリをすると、
「最後の1枚が残ってンだろ」
予想通りの答えが返ってきて、いい加減にしろと握った拳が震えた。
いくら片手が使えないからって、いったいどこの世界に下着まで下ろさせるやつがいる?
甘い仲の恋人や子供でもなし、断固拒否だと背中で拒んだ。
「……ンだよ、冷てェなァ」
クックと喉で笑われ、からかわれていたのだと知る。
目の前が紅く染まるほどの屈辱と羞恥に、乱暴にバスルームへの扉を開いた。
アゴでしゃくれば、片手で恥ずかしげもなくボクサーを脱いだ龍之介が、全裸をさらしながら悠然と歩いてきた。
日焼けしている者ほど下着の跡が滑稽だったりするものだが、龍之介の場合、もともとの裸の色が濃いのか、全身が艶のある綺麗な褐色だった。
腹筋だけでなく、二の腕やふくらはぎ、背中から臀部に至るすべての筋肉が過不足のないブロンズ像のような理想的なラインを描いている。
ダラリと垂れ下がった質量のあるその部分さえ、あまりに堂々とたくましく、これなら理想像として美術館に飾れそうだなどと妙な想像をしてしまう。
「そう熱く見られっと、勃ちそうになる。……そっちの処理までお願いされたくなかったら、あんま煽ンな」
「……っ、死んでもごめんだ」
見惚れていた自覚があるだけに、バツが悪くて、歯切れの悪く返した。
こんなバカバカしいことはさっさと済ませてしまうに限ると、腕まくりし、パンツの裾をたくし上げていると、
「オマエ、何やってンだ? まさか、オレのカラダ洗って終わりとか思ってねェよな?」
その、まさかである。
「一緒に入るに決まってンだろ」
文字通り固まった。
「……あり得ないだろ」
やっとのことで口にすれば、
「ヤんねェよ」
龍之介が全裸のまま、振り返る。
「……少なくとも風呂ン中では、ヤんねェ」
ここまで譲ってンだから、当然呑むよな? と、欲情の兆を見せる声で問われれば、もはや逃げ場はなかった。
これで断れば、変に意識していると認めるようなものだ。
「……手を出したら、殺してやる」
「……あァ、いいぜ。その目はけっこうソソる」
濡れて確実に破壊力を増していく声に、もう黙れと言い置いて、こちらも乱暴に衣服を脱ぎ落としたのだった。
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