9 / 175

『Kissの意味』2

ばっと立ち上がって、ぷりぷりしながらリビングから出て行こうとする祥悟の腕を、智也は慌てて追いすがって掴んだ。 「ちょっと待って。ね、いいからこれ、見てみてよ」 むすっとしながら振り返った、祥悟の目の前に差し出された画面には…… 「……は‍?キスの……意味‍?」 「そう。これね、結構面白いんだよ。例えばね……」 智也は言いながら、祥悟の手を持ち上げて 「これは……懇願」 そう言って恭しく掲げた祥悟の掌に、そっとキスを落とす。 「……っ。くすぐってぇし」 普段触れられない場所に不意打ちにキスされて、思わず引っ込めようとするのを許さず、智也は掌から指先に唇を滑らせ 「これは……賞賛、だね」 ふうっと吐息を吹きかけながら、指先にちゅっと口付ける。 「ふうん……キスする場所に、意味とかあるんだ‍?‍」 むすっとしていた祥悟は、ちょっとだけ興味をそそられて、もう1度画面を覗き込んだ。 「そう。こうやって意味を考えながらすると、いつもしてるキスも新鮮に感じないかい?」 祥悟は、画面から智也に視線を移すと、微妙な顔をして首を傾げた。 ……こいつのこういうとこ、やっぱいまいち理解出来ないんだけど……。 智也は、役者をしながら趣味で小説を書いている。普段はあまり感じたことはないが、たまにちょっと、感性が違うな……と思うことはある。要するに、少々変わり者なのだ。 キスなんて気持ちが高ぶって、その時の衝動に任せてするものだと思っている祥悟には、こういう智也のこだわりは今ひとつピンと来ない。 嬉々としてスマホを見ながら、次はどこにキスしようかと楽しげな智也の顔を、祥悟はまじまじと見つめながら ……ま。いっか。今日のこいつ……なんだか可愛いし。 内心苦笑した。

ともだちにシェアしよう!