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『Kissの意味』2
ばっと立ち上がって、ぷりぷりしながらリビングから出て行こうとする祥悟の腕を、智也は慌てて追いすがって掴んだ。
「ちょっと待って。ね、いいからこれ、見てみてよ」
むすっとしながら振り返った、祥悟の目の前に差し出された画面には……
「……は?キスの……意味?」
「そう。これね、結構面白いんだよ。例えばね……」
智也は言いながら、祥悟の手を持ち上げて
「これは……懇願」
そう言って恭しく掲げた祥悟の掌に、そっとキスを落とす。
「……っ。くすぐってぇし」
普段触れられない場所に不意打ちにキスされて、思わず引っ込めようとするのを許さず、智也は掌から指先に唇を滑らせ
「これは……賞賛、だね」
ふうっと吐息を吹きかけながら、指先にちゅっと口付ける。
「ふうん……キスする場所に、意味とかあるんだ?」
むすっとしていた祥悟は、ちょっとだけ興味をそそられて、もう1度画面を覗き込んだ。
「そう。こうやって意味を考えながらすると、いつもしてるキスも新鮮に感じないかい?」
祥悟は、画面から智也に視線を移すと、微妙な顔をして首を傾げた。
……こいつのこういうとこ、やっぱいまいち理解出来ないんだけど……。
智也は、役者をしながら趣味で小説を書いている。普段はあまり感じたことはないが、たまにちょっと、感性が違うな……と思うことはある。要するに、少々変わり者なのだ。
キスなんて気持ちが高ぶって、その時の衝動に任せてするものだと思っている祥悟には、こういう智也のこだわりは今ひとつピンと来ない。
嬉々としてスマホを見ながら、次はどこにキスしようかと楽しげな智也の顔を、祥悟はまじまじと見つめながら
……ま。いっか。今日のこいつ……なんだか可愛いし。
内心苦笑した。
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