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『Kissの意味』5

「祥。気持ちいい?」 顔を覗き込んでくる智也の声に、思いを中断された。見つめ返す智也の目に仄かな欲情が滲んでいる。 「ん……いい……」 「なに……考えてた‍?」 「……べつに、何も‍?」 智也の表情が気遣わしげに曇る。祥悟は腕を伸ばして頬をすっと撫でて 「んな顔、すんな。なんでもねえよ。ただ……」 「ただ‍?」 眉を寄せる智也に祥悟はふふっと笑って 「いや。おまえさ、やっぱゲイだったんだな〜ってさ」 「え‍?」 きょとんとした智也に、祥悟は苦笑して 「昔さ。おまえと会ったばっかの頃、俺がゲイだろ?って聞く度にすっげー否定してたろ‍?おまえ」 智也の顔がみるみるバツが悪そうになっていく。 「そう……だった‍?」 「とぼけんなよ。その顔、身に覚えあるんじゃん。……おまえってさ、結構、悪いやつだよなぁ。純真な少年、騙してさ」 智也は微妙に目を逸らして 「騙してなんか、ないよ。あ……いや……騙してたのかな」 その自信なさげな物言いに、祥悟はくくく……っと笑い出し 「おまえ一時期さ、半同棲してたって噂あったろ。それって、もしかしてカノジョじゃなくてカレシかよ‍?」 智也はますます弱りきった顔になり 「違うよ。あれは半同棲とかじゃないから。従兄弟だよ。君も会ったことがあるよね」 祥悟は伸び上がって智也の顔を両手で包み 「ふうん。従兄弟、ね。あのさ、智也、そいつと……寝た‍?」 「…………」 黙り込んでしまった智也の目が、哀しげに揺らめいている。 ……ったく。嘘でもいいから否定しろよな。 今になれば、あの頃の智也がどんな心情でいたのか、分かるのだ。智也がゲイで自分のことをずっと好きでいてくれたのなら、あの頃、自分が智也にどんな残酷なことをしていたのかも……分かる。 「ばーか。んな顔すんな。責めてる訳じゃねーし」 「いや、寝てはいないよ。ただ……1度だけ……そういう雰囲気になって……抱く寸前までいったことはある。未遂だったけど。……軽蔑……したかい?」 「しねえよ。するわけねえじゃん。俺がんなこと出来る立場かよ。……でもさ」 祥吾は包んだ智也の顔に、そっと唇を寄せて 「ごめんな。智也。おまえの気持ち、俺ずっと気づかないでさ。傷つけて……ごめん」 囁いて、そっと唇にキスをした。

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