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『Kissの意味』6
祥悟の突然の謝罪に、智也は絶句して、金縛りに遭ったように固まってしまった。
呆けたように祥悟を見つめたまま、息をするのも忘れてしまっているみたいだ。
祥悟は智也の頬をつんつんっと指でつついて
「おい。智也? おまえなに石化してんだよ?」
「……っ」
何か言おうとして声を詰まらせ、慌ててごほっと咳払いをすると
「祥……。君、どっどうしたの? なにっ突然、どうして……っ」
焦りすぎて盛大に吃る智也の頭を、祥悟はぐいっと抱き寄せて
「落ち着けって。あのさ、俺、今さらだけどさ、なーんも見えてなかったんだなーって気づいたのな。すっげー鈍感でさ、視野も狭かったよな。一番近いとこに、気がつけばいっつもいてくれたの、智也だったのにさ」
「祥……」
祥悟は抱き締めた智也の頭に、すりすりと頬を寄せ
「出逢って19年ってさ、長すぎるじゃん。おまえ、俺のこと黙って待ちすぎ。どんだけ辛抱強いんだよ。ほんと、バカじゃねーの?
……いや、バカは俺の方だし。なんでもっと早く……気づかなかったんだろ。おまえの側が、こんなにあったかいってこと、さ」
「しょ……祥……っ」
顔をあげようとする智也の頭をぎゅっと押さえつけた。今のこの情けない顔は、智也に見せたくない。
「もっと早く、自分のこの気持ち、気づいてたらさ。俺ら、もっといろんなこと、出来たよな。あの頃じゃなきゃ出来なかったこと、いっぱい……出来たんだよなぁ。そう思うとさ、なんか……悔しくねえ?」
祥悟はそう言って、智也の髪の毛にキスをした。
……髪へのキスの意味は……何だったかな。
押さえつけていた智也が、必死にもがいて顔をあげる。真っ赤になった智也の目を見て、祥吾はきゅっと胸が痛くなった。
……あーぁ。ダメじゃん。おまえ……また泣いてるし。
「祥。違うよ、祥。それは違う。俺は君に、そんな、そんなこと、思って欲しくないよ。全然、遅くなんかないんだ。君と出逢って一緒に過ごした19年は、俺にとって宝石みたいに、いつだって煌めいていたよ。だから、君は、そんな……そんな風に悔やんで欲しくないっ」
涙声で言い募る智也の必死さに、思わずもらい泣きしかけて、祥悟は誤魔化すようにふっと笑って、スマホの画面を確認した。
「……んーと。あった。髪へのキスは、思慕だよね。それから……」
祥悟は智也の目に唇を近づけ
「目、閉じてよ」
素直に閉じた智也の瞼に、そっとキスをする。
「ここは……憧憬、な。ほら、もう泣きやめって。俺、おまえが泣くの、見てんのやだし。な?」
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