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『Kissの意味』7

智也は慌てて腕で涙を拭うと 「ああ……ごめん。なんだろうな。最近、涙腺がゆるくて。……歳かな」 苦笑する智也に、祥悟は首を竦めて 「ま、俺が泣かしてんだし?……悪かったな。突然変なこと言っちゃってさ」 また智也を泣かせてしまった罪悪感に、胸の奥がちくちくと痛む。拗ねてそっぽを向こうとする祥悟の顔を、智也の両手が優しく包み込んでくれた。 「ねえ、祥。あの頃出来なかったことで悔しいことなんて、俺にはないんだよ。19年もずっと君の身近にいられて、君の成長を見守り続けてきたんだ。例えばもし、君ともっと早く恋人になれたとしてもね、喧嘩して別れちゃったかもしれない。ゆるい関係だったからこそ、いろいろなことを乗り越えて、今の俺たちがいる。俺にはそう思えるんだよね」 「ふーん……。おまえってすっげー気が長くてポジティブなのな。まあ、でも、そうかもな」 祥悟は智也の胸に、もぞもぞと顔を埋め 「あの頃は俺、すっげートゲトゲしてたし、突っ張ってたし、周り全部、敵だと思って身構えてた。他人と深く関わるのって、なんか負けな気がしてたんだよね」 甘える祥悟の身体をすっぽりと抱き込んだまま、智也はソファーに腰をおろすと 「ふふ。分かるよ。君はいつも見えない何かと戦ってたよね。それが何なのかはわからなかったけど……。俺はそういう君が可愛くて仕方なかった。君がここに羽根を安めにきてくれる度に、愛おしくて心が震えたよ」 祥悟は胸からむくっと顔をあげた。上目遣いにちろっと智也の顔を睨みつけた。 「うわぁ……ドン引き。おまえ、よく臆面も無くそーゆー言葉吐けるよな。信じらんねえ。いい歳して厨二病かよ‍? うっわ。まじで信じらんねえわ」 盛大に悪態をつきながら、じわじわと顔が火照っていくのが分かって、祥悟は慌てて智也から目を逸らした。 ……なんか……智也の顔、眩しくて見てらんねーし。なにこれ。やばい。甘すぎるんだけど? 智也が優しかったのは前からだ。でも前より更に優しくて甘くなった気がする。 祥悟はこれまで感じたことのない胸のドキドキを、どう扱っていいのか分からなくて、慌ててまた誤魔化すようにスマホの画面を覗き込んだ。 「いいから、続きな。えっと……次は腹。意味は……回帰‍」

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