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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」4

「ん。まずはひと皿作ってみたんだ。見た目とかバランス、どうだ?」 「バレンタインデーの……特別メニュー…ですよね……」 「そ。まあ、今年は当日店出さねえからさ、期間限定メニューっつーことで、ちょっと早めに出しちまうかなーってな」 暁がにっこり笑ってみせると、雅紀はぐすっと鼻を啜り 「ごめんなさい。俺……考えなしで」 「ん?」 雅紀はデザートプレートの皿の縁を指先で撫でると 「こないだから暁さん、このデザート、一生懸命考えてて。ようやく決まって、試作してて。それなのに俺、あんなの当たったーって、バカみたいに、はしゃいじゃって」 くすんくすんと鼻を啜りながら、途切れ途切れに話す雅紀の言葉で、ようやく理解した。 あんなに嬉しそうだったのに、急にしょんぼりしてしまった理由が。 暁は眉尻を下げ苦笑すると 「そーゆーことかよ。ったく。驚かすなって。どっか具合でも悪いのかって焦っちまったぜ~」 暁は手を伸ばして、雅紀のふわふわの髪の毛をぽんぽんっと優しく撫でると 「ばーか。それは別にいいんだっての。言ったろ?当日は出さねえけど期間限定で早めに出すってさ」 「っ、でも、」 「あ~……もう、おまえってどうしてそう可愛いかなぁ」 暁は頬をゆるませ雅紀の頭をわしわしして 「それで一人でくよくよ悩んで、目、うるうるさせてたのかよ。愛しいやつっ」 髪の毛がくしゃくしゃになった雅紀が、涙目で恨めしげに見上げてくる。暁はその鼻先にちゅーっとキスをした。 「そういう時はさ、独りでぐるぐるする前に、言えって言ったろ~?」 「暁さん…」 「俺はもうすっかり行く気満々で、おまえにどんな格好させようかまで考えて浮かれてたんだぜ」 雅紀は目を真ん丸に見開いた。暁は片目を瞑ってみせて 「ああいう超一流のホテルだと、ドレスコードってやつがあるだろ?やっぱそれなりの格好しねえとな。フォーマルなやつをさ」 「フォーマル……」 「おまえは何着せても似合うからなぁ。ブラックタキシードでビシッと決めるのもいいよな。あ、でも白のタキシードでもめっちゃ似合うよなぁ……」 にへらにへらし始めた暁に、雅紀は眉にシワを寄せて 「また暁さん、変な妄想してるでしょ。俺、普通のスーツで行きますからね!コスプレはしないです」 「は?おいこら待て。変な妄想って何だよ?せっかくのバレンタイン特別ご招待だぞ?やっぱ……あ……」 急に何かを思いついて、言葉を途切らせた暁に、雅紀はますます警戒を強めた。 「あって何?暁さん、あって何ですか?俺、しませんよ?変な格好は絶対に」

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