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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」5
「は?おまっ、なにその言い方。変な格好なんて言ってないだろが。ちょっと待て。なーんでそんな警戒してんだよっ」
暁は眉にシワを寄せ、じりじり後退ろうとする雅紀の腕を掴んでグイッと抱き寄せた。
「だって暁さん、前科あるでしょ。俺にいっつもなんか変な格好させようとするじゃないですか」
「ちげーよ。そうじゃなくてさ、そのバレンタイン特別企画って、たしか応募資格がカップル限定だったよなぁ?」
「…へ?……えーと、そうですよね。恋人たちに特別な夜の甘いひとときをプレゼントっていう企画で、……あ」
雅紀は言葉を途切れさせて、暁と顔を見合わせた。
暁はちょっと渋い顔で首を竦めて
「前にもあったよな。やっぱなんかのイベントでさ、カップル限定の」
「……そっか……そうですよね……」
それは無料でご招待という内容ではなかったが、2人で申し込みをして、いざ参加しようとして断られたのだ。
男女のペア限定の特別企画だからと。
楽しみにしていた分、参加を断られた時のショックは大きかった。男同士のカップルも、昔に比べたら世間で認められているが、時々、そういうことがあると思い知らされるのだ。
「んー……まぁ、これは大丈夫な気はするけどなぁ。一流ホテルの企画イベントだしさ」
「でも……ペア2組の当選なのに、そのひと組が男同士って、向こうはきっと想定外かも……」
顔を見合わせて、2人同時にため息をついた。
普段、あまりにも2人でいることが当たり前で、男同士だから…なんて特別に意識したことはない。
だから時折、自分たちの関係がマイノリティであると他人からはっきり突き付けられると、戸惑うし、ちょっと凹む。
いや、暁自身はまったくの無頓着なのだが、雅紀がかなり落ち込むのだ。そういうしょんぼりした姿を見るのがせつない。
雅紀は椅子に腰をおろして、テーブルの上のデザートプレートを見つめている。暁はその傍らに立ってどうしたものかと思案していた。
「ね……暁さん。やっぱりこれ、辞退…」
「そっか。それだっ」
「へ?」
暁の素っ頓狂な声に言葉を遮られて、雅紀はきょとんと暁を見上げた。
「いいこと思いついたんだ。うん、これで解決だろ~。くー…っ。俺って冴えてるぜっ」
雅紀の困惑をよそに、暁はにやにやしながら、後ろから雅紀の身体を椅子の背もたれごとぎゅっと抱き締めた。
「あ、暁さん、いいことって?何、思いついたんですか?」
雅紀はもがきながら振り返り、肩に顔を乗せた暁の顔をじっと見つめた。
暁はにやーっと笑ってみせて
「んー。あのな……」
耳元に唇を寄せ説明し始めた。
雅紀は目を見開きながら黙って聞いていたが
「や。無理です!暁さん、俺」
「大丈夫だって。な?俺に任せとけ」
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