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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」7

愛し合い心も身体も満たされて、また心地よい微睡みに引き込まれていきそうになる。 今日はまるまるオフだ。たまにはこういう自堕落な時間の過ごし方もいい。 「あっ」 傍らで同じように微睡みかけていた智也が、不意にちょっと間の抜けた声をあげた。ガバッと布団を跳ね除けて起き上がる。 「んー…なんだよ?」 「そっか。忘れてた。君に見せたい物があったんだ」 「ふーん?……なに」 智也はごそごそと床に脱ぎ散らかした服を探っていたが 「あった。これだ」 封書を目の前にかざしてくる。祥悟は眠い目を半分開けてそれをぼんやりと見つめた。 「なにこれ……。ホテルの……招待券?」 「うん。前にネットでデザートバイキングを検索してて見つけただろう?バレンタインデーの特別イベントの懸賞だよ」 祥悟はパチッと目を見開き、智也の手から封書を奪い取ってまじまじと見つめた。 ペアで2組だけのプレミアム宿泊券。たしかディナーとデザート付きのスイートルームだ。 「へえ……すげえ。これ、当たっちまったのかよ?」 「そうなんだ。2組だけなんて当たるはずないって言ってたのにね」 祥悟はくくくっと喉を鳴らして笑って 「おまえ、どんだけ運いいのさ。ここのホテルって普通に泊まるだけでも高いっつーの。豪華ディナーとデザート付きスイートとか、ヤバすぎるだろ」 「だからビックリして君に知らせに来たんだよ。この日、君、仕事の予定は?」 「んー。バレンタインデーだろ?元から予定入れてねーし?」 智也は嬉しそうに頷くと、 「じゃあ決まりだ。今年のバレンタインデーはここに泊まるよ。素敵な夜になりそうだね」 幸せそうに頬をゆるめ、顔を覗き込んでくる智也の顔がなんだか可愛い。 祥悟は腕を伸ばして起こしてくれと無言でせがんだ。優しく引き起こされ、ぎゅっと抱き締められる。まだ少し熱を帯びた素肌が触れ合って、温もりが心地いい。 「目、覚めた。もう起きる」 「うん。朝食……いや、もうお昼かな。準備してあるからリビングに行こう」 「なあ、智也」 祥悟はサラダをフォークでつつきながら、隣に座る智也を横目で見た。 「なんだい?あ、カフェモカ、お代わりするなら温めて…」 「や。まだいい。それよりさ、さっきのバレンタインの招待チケット」 「うん」 「あれってさ、ドレスコードとかあるんだよな?」 祥悟の問いかけに、智也はおっとりと首を傾げ 「そうだね。モデル時代、あそこで何度かパーティーがあっただろう?事務所の。たしか服装とか、他より厳しかったはずだよ」 「じゃ、フォーマルか。しばらく着てねえけど……まだ着れるかな」 「君、体型は全然変わってないからね。きっと大丈夫だよ」 祥悟はミネストローネをスプーンですくって口に放り込み、咀嚼しながら考え込んだ。 ……たしかあのバレンタインデー特別企画って、恋人たちに特別な夜の甘いひとときを……とか書いてたよな。あれって男同士でもOKなのか? ペアで2組だけのプレミアムチケット。 企画したホテル側は、そのうちの1組がゲイカップルだと想定しているのだろうか。

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