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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」8

智也とこういう関係になっても、自分が特別に人と違うことをしているとは思わない。 好きな相手と共に暮らし、心と身体を重ね合う。 ごく自然なことだ。 だが世間ではまだまだ、男女のカップルに比べると、奇異の目で見られる機会は多い。 自分たちの認識と世間一般の認識に、開きがあることは否めない。 ……ま。海外の政治家とか大物アーティストなんかもよく使ってる一流ホテルだしな。あからさまに拒絶されたりってことはねーだろうけどさ。 当選したもう一方のカップルは恐らく男女だろう。こういう企画はホテルが宣伝の為にやっているから、もしかしたら雑誌の取材なんかもあるのかもしれない。 「祥。どうしたの?そのスープ、口に合わなかった?」 智也が気遣わしげに顔を覗き込んできた。 優しい恋人だ。 自分には勿体ないくらいの。 自分は誰にどんな目で見られても平気だが、もともとゲイだった智也は、この関係にどうやら負い目を感じているらしい。 以前、喧嘩をした時に「何も知らない君を自分の性的趣向に巻き込んでしまった」と、うっかり口を滑らせたことがある。 バカバカしいことだ。 巻き込んだというのなら、自分の方こそだと祥悟は思っている。だが、優しすぎるこの男は、己のことよりもまず、こちらの気持ちを気遣ってくれるのだ。 「んー……」 「嫌いな物、あるなら、俺が食べるから残して」 「や。ちげーし。な、智也。そのお泊まりだけどさ、ちょっと面白い演出、思いついちゃったんだよね」 「面白い……演出?」 きょとんと首を傾げる智也に、祥悟はにやりと笑うと、指先をくいくいっとさせた。素直に耳を寄せてくる恋人に、祥悟がその提案を囁くと 「え……っ。いいの?だって君、」 「前にやってみてえって言ってたじゃん、おまえ。流石にこの歳じゃさ、いろいろ隠さねえと無理だけどな」 唖然としている智也に、祥悟は悪戯っぽく微笑んで片目を瞑ってみせた。 「ね……暁さん。本当にこれ……」 「大丈夫だーって。ちゃんとプロに頼んであるんだよ」 「……でも……」 不安そうに眉を八の字にする雅紀の肩を、暁はそっと抱き寄せた。 「どーしても、嫌か?もしそうなら無理にとは言わねえけどな。ん?」 暁がそう言って優しく微笑むと、雅紀はぷーっと頬をふくらませた。 「もう……暁さん、ずるい。そういう顔するなんて」 「狡くねえさ。おまえが本気で嫌がること、俺はさせたくねえからな」 雅紀はふう…っと小さくため息をついて微笑んだ。 「お任せします。里沙さんなら、きっと大丈夫ですよね」 「祥。大丈夫かい?もし君が無理してるなら、俺は別に行かなくても…」 「ばーか。無理なんかするかよ。面白ぇじゃん。プロに頼んでるんだぜ」 「それは……そうだけど……」 不安そうに瞳を揺らす智也の頬に、祥悟はそっとキスをした。 「せっかくの特別な夜だ。思いっきり楽しもうぜ」 片目を瞑ると、智也はドギマギしたように頬に手を当てて苦笑した。 「もう……君って人は。……わかったよ、祥。君とだったらどんなことだって楽しいからね」

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