55 / 175
バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」9
「やばい。うはぁ……おまえ…すごいぜ」
「んもぉ~。さっきから何回目ですか!暁さん。そんなジロジロ見ないでください……」
雅紀は盛大に照れて、恥ずかしそうに俯き顔を背ける。暁は馬鹿みたいに同じセリフを呟いていた。
……や、だって、本気でヤバいだろーこれ。
もともと、雅紀はどんな格好をしても似合うのだ。しかも未だに童顔で、自分と同じ30代の男とは到底思えない。
……それにしても……天使かよ!
コーディネートは里沙に全てお任せした。
上品に清楚に愛らしく。
暁から出した要望に、里沙は苦笑していたが、仕上がった雅紀の姿を見て、彼女も目を丸くしたのだ。
それぐらい、目の前の可愛い恋人はとびきり清楚な乙女に化けている。
暁が惚けたようにまだ見とれていると、雅紀はついにぷりぷり怒り出した。
「もー。暁さんのお馬鹿。いつまでもジロジロ見てるんなら、俺もう着替えて帰っちゃいますからね!」
「うわぁっ。ま、待て待てっ。んな怒んなっつーの。な、な、ご機嫌直せって~。おまえがあんま綺麗だからさ、なんかぼーっとしちまったんだって」
暁は慌ててご機嫌を取ると、デレデレになっていた表情を引き締め、ちょっとポーズをつけてドヤ顔してみた。
「それよりさ、俺のこの格好はどうよ?似合ってるか?」
腰に手を当て胸を張ってみせると、雅紀はじーっとこちらを見つめて、じわじわと目元を紅くした。
「うん……すごい……格好いいです。暁さん、身長高いからそういう格好、めちゃくちゃ似合うし」
可愛い恋人にストレートに褒められて、暁の鼻息は荒くなる。
「雅紀~。もーおまえってさ、ほんっと可愛いやつっ」
つい大はしゃぎしながら抱きつこうとしたが、すっとかわされた。
「なんでだよ!」
「だって……せっかくセットしてもらったの、崩れちゃいますよ?」
雅紀のもっともな答えに、暁はぐぬぬぬぬ……と黙り込んだ。
そうだ。今日の雅紀は清楚でスタイリッシュなとびきりの美女さんなのだ。ここは自分もスマートにエスコートしてやらなければ。
「んじゃ。……お手をどうぞ。お嬢さん」
暁が気を取り直してすっと手を差し出すと、雅紀はくるくると愛らしい巻き毛の間から恥ずかしそうにはにかんで、細い手を伸ばしてきた。
「………………。」
「おまえさぁ、なんなの?さっきから。なんか言えよ」
痺れを切らしたような祥悟の言葉に、智也はハッと我に返った。
腰に手をあてふんぞり返ったポーズで、自分を睨めつけているのは……絶世の美女だ。
まるで映画から抜け出してきた女優のような、コケティッシュでレトロモダンなそのいでたち。
ミニでタイトなスリッドの入ったスカートから覗くほっそりとした美脚。しっとりと艶やかな黒髪を上品にまとめ上げ、くるんと毛先の巻いた後れ毛を顔の脇とうなじで遊ばせている。
細身なのはもちろん分かっていたが、これはどこからどう見ても男には見えない。
智也はゴクリと唾を飲み込んだ。
君……誰?と、思わず突っ込みたくなる。
「祥……」
「上手く化けただろ?これでサングラス掛けたら、誰も男だってわかんねーし?」
「や。うん。でもちょっとやり過ぎかな……」
これでは、違う意味で悪目立ちしてしまう。
ともだちにシェアしよう!