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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」10

「は?何それ。気に入らねえわけ?」 祥悟はグイッと顎を突き出して迫ってくる。 「いや、そうじゃないよ」 そうじゃない。 気に入らないわけがない。 祥悟が並外れた美しさなのは、間近で素顔を見続けてきた自分が、一番よく知っている。 でも……こんな格好されたら、綺麗すぎてドキドキする。 こんなにあでやかで華やかな人に、自分は釣り合っているのだろうか? 智也はおずおずと両手を伸ばして、祥悟のほっそりとした腰を掴んで引き寄せた。 「綺麗だよ……祥」 意表を突かれたように、祥悟が目を丸くする。 「う……なんだよ、急に」 「すごく、綺麗だ。君は本当に……美しい人なんだなって思って」 智也の言葉に祥悟は戸惑ったように目を泳がせた。 「な、なに、いまさら言っちゃってんのさ?知らなかったのかよ、俺の顔」 「ふふ。知ってたよ。でも驚いた。君はきっと天性のモデルなんだな。こんな格好、普通は誰も着こなせないよ」 祥悟は腰を掴まれたまま、ひょいっと姿見を覗き込み 「ふーん?そうか?この程度の女なんて、あの業界にはいっぱいいたし?ま、コーディネート考えたのは里沙だけどさ。我ながら上手く化けたよな。ヒール低い靴履くから、これで男だって見破るやつはいねえだろ?」 「うん。……ねえ、祥。俺はどうだい?君のその姿に相応しいパートナーかな」 正直、モデルを辞めてから随分経つ。今は仕事柄、家に引きこもっている時間も長いから、自分の容姿には昔以上に自信がない。 祥悟は腰の手を外させて、上から下までゆっくりと眺め渡してから、満足そうに微笑んだ。 「ん。完璧。どっからどう見ても、俺の理想の男になってるし?」 「っ、えっ?」 「なんで驚いてるのさ。おまえは俺の理想の男じゃん。昔っからそうだけど?」 智也は固まったまま、祥悟のドヤ顔をまじまじと見つめた。 ……理想の……男?俺が?君の? 「おまえってさ、俺の言ってること、ほんとに聞いてねえよな」 祥悟は大きくため息をつくと、頭をぽかっと殴ってきた。 「俺は前から何回も言ってるけど?今頃そんな驚いた顔されてもさ、むしろこっちが驚くっつーの」 「祥……俺は……」 祥悟は腕を掴んでグイグイ引っ張っていき、姿見の前に並んで立つと 「覚えといてよ。これが、俺の、理想の男なの。おまえ以外に俺に相応しいパートナーなんかいるかよ」 祥悟の言葉に、じわりと目の奥が熱くなる。 「さ、行こうぜ、智也。特別な夜はこれからだし」 「ああ。そうだね」

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