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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」17
席に戻ると、雅紀が腰を浮かして落ち着かなそうにキョロキョロ辺りを見回していた。
「お待たせ。……って、どーした?おまえもトイレか?」
「あ、暁さん、よかったぁ。帰ってくるの遅いから、何かあったのかなって」
「お、悪いっ、ちょっと知り合いに会っちまってさ」
「あのね、給仕さんが来て、デザートのオプション、どうするか?って」
「お…そっか。たしかバレンタイン用の特別メニューがあったんだよな」
暁は椅子に座ると、雅紀の手元のメニューを覗き込んだ。
「へえ。すげーな。どれも美味そうじゃん。おまえ、まだ食えそうか?」
雅紀はうーん…っと首を傾げた。
「結構、お腹いっぱいです。でも……せっかくだから何か頼んでみたい…」
「だよな。んー……じゃ、おまえが好きなプレート選べよ。食えなかったら俺が残りは食ってやるからさ」
そう言って顔を覗き込むと、雅紀は幸せそうにふにゃんっと笑って
「はい。えっと、じゃあ……」
嬉しそうに目を輝かせ、メニューを真剣に見始めた雅紀の横顔を、暁は頬をゆるめながら見守った。
……んー。やっぱ可愛いぜ、うちの仔猫ちゃんが一番だろ。祥悟になんか負けてねーし。うっはぁ…その笑顔っ。マジで天使だろ。食っちまいたいくらい可愛いぜ~。……そういや今日はこの後、豪華スイートルームにお泊まりなんだよなぁ。く~。やばい。この可愛らしい服、少しずつ脱がせてさ「や、暁さん、部屋が明るすぎます。見ちゃダメです」……なーんて恥じらっちまうんだぜ。うー可愛い可愛い。
にへらにへらと妄想していると、雅紀がひょいっと顔をあげてこっちを見た。
「……暁さん、聞いてます?」
「へ?」
「もう……なににやにやしてるんですか。これとこれ、どっちがいい?って聞いてるのに」
暁は慌てて表情を引き締めた。
「お。悪いっ、えーとな、んー。どっちがいいかなぁ」
「……また何か変なこと考えてたんだ。……あ、そういえば暁さん、さっき会った知り合いって?」
雅紀の言葉に、暁はぎくっとして目を逸らした。
実はうっかり祥悟のことを言いかけてやめたのだ。聞き流してくれたと思ったのに、しっかり聞いていたのか。
「う?や、いや、昔の仕事の時のな、お客さんだよ。……よし、こっちの方が種類いろいろあるからこれにしようぜ」
暁がメニューを指差すと、雅紀は素直にそちらを見て頷いた。
「あ。じゃあ、こっち注文しますね」
ベルでウェイターを呼んでいる雅紀を、ちらっと横目で見て、暁はほっと胸を撫で下ろした。
祥悟のことは、やっぱり言わない方がいい。
あの2人が来ていると知ったら、雅紀はきっと「こんな格好やめます」と言い出すだろう。下手するともう帰ると言いかねない。
……とっととデザート食って、あいつらに会っちまう前に部屋に連れてかねえとな。
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