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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」20

暁が考えたように、もし雅紀が祥悟たちのことを知ったら、たぶん顔を合わせたくないと言うだろう。 雅紀には余計なことは知らせず、彼らには会わせないように、早々に部屋の方へ引き上げてしまった方がいい。 「な、雅紀」 「何ですか?秋音さん」 「そろそろ部屋に行ってみるか」 ちょっと意味ありげに片目を瞑ってみせると、雅紀は目を伏せこくん…と頷いた。 「どうしたの?さっきから君、なんだかソワソワしているよね」 怪訝そうな智也の言葉に、祥悟は慌てて視線を戻した。 「別にそわそわなんかしてねーし」 「もうひと皿、何か頼もうか?」 「いや。流石にもういいわ。腹いっぱいだし。それより智也、そろそろ部屋の方に行かない?俺またトイレ行きたくなってきたし」 「ああ。それなら一度フロントに戻って部屋のキーを貰ってこないと。君はこの階で待ってる?」 「んー……一緒に行く。でも俺はロビーで待ってるわ。この格好であんまフロント行きたくねえし」 「そうだよね。じゃあ、とりあえず出ようか」 智也はベルを鳴らしてウェイターを呼んだ。 「おいで」 ウェイターを呼び、先にブースから出た秋音は、辺りを見回してから雅紀に手招きした。 何も知らない雅紀はおっとりと歩み寄ってくる。その腕を自分の腕に絡ませて、出来るだけ足早にレストランを後にした。 エレベーター前まで来て、そっと吐息をつく。 「秋音さん。俺もフロントに行った方がいい?」 雅紀はドレスの裾を引っ張りながら、もじもじしている。 「いや。とりあえず、俺がフロントでキーを受け取ってくるから、おまえは一緒に降りてエレベーターの前で待っていてくれ」 エレベーターがボンっと低い音をたてて到着した。秋音はレストランの方をちらっと確認してから、雅紀を促して一緒に乗り込む。 正直、祥悟たちにもし会ってしまったら、その時はその時だと思っている。 真名瀬智也は好青年だし、祥悟に対しても自分は暁ほどの苦手意識はない。もし顔を合わせて祥悟が雅紀を揶揄うようなら、ビシッと文句を言ってやればいい。 エレベーターが1階に到着する。 秋音は雅紀をエレベーターからは柱の陰になっているソファーに連れて行って座らせると、フロントに向かった。 「んじゃ、俺はロビーに行ってるな」 祥悟の言葉に頷いて、智也はフロントに向かった。

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