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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」29

休憩ルームに残された2人は、思わず顔を見合わせた。 「……なぁ、雅紀……」 「はい」 「真名瀬さん……なんか迫力なかったか?」 「……ですよね」 「怖かったよな。目が……笑ってなかっただろ」 「うん。ちょっと……怖かったかも」 「いや。真名瀬さん、普段大人しいからさ、あんな風に静かに怒ると、ヤバいくらい怖えわ」 「これからお部屋に行って……祥悟さん、お仕置きされちゃう……かも?」 雅紀の呟きに、暁は眉をしかめて考え込んだ。 智也の怒った姿も衝撃だったが、言うことを聞いてすかさず謝ってきた祥悟の素直さにも、正直仰け反るくらい驚いた。 案外、あの2人の関係は、智也の方が強かったりするのだろうか……。 暁は夢から醒めたようにガクッと脱力して、雅紀の頬にスリスリと頬を擦り寄せた。 「まあ、何にしてもよかったぜ~。おまえが無事で。や、っつーか、なんもされてねえよな?あいつに」 雅紀がぎゅうっと抱きついてくる。 「ん……。ちょっとだけ」 「はぁっ?ちょ、ちょっとだけってなんだよ?何された!」 暁は慌てて雅紀の身体を引き剥がすと、顔を覗き込む。雅紀は目元をうっすら染めてもじもじしながら 「あのね。暁さんに買ってもらった下着……見られちゃいました……あのガーターベルトも」 「うはぁ~。おいっ、マジか」 「うん。それに……ちょっと、触られて……」 暁は仰け反って天を仰ぐと 「あんの野郎っ、やっぱ手、出してんじゃねーか。雅紀っ、触られたってアソコをか?」 「ん……でも、ちょっと掠っただけ。暁さん、来てくれたから大丈夫です」 暁は再び、雅紀をグイッと抱き寄せ、 「ん~そっか。まぁ、間に合ってよかったぜ。やっぱおまえ、可愛すぎなんだよなぁ。祥悟のやつ、きっとおまえに嫉妬してるんだぜ」 「でも祥悟さん、すごい美人さんでしたよ。そういえば暁さん、祥悟さんのお尻に、見惚れてたんですよね?」 暁はギクッとして、腕の中の雅紀を恐る恐る見下ろした。 雅紀はにこにこしている。でも、その目がちょっと笑っていないような……気がする。 「や、いやいやっ、見蕩れてなんか、いねーしっ」 雅紀はおっとりと首を傾げた。 「そうなんですか?でも……祥悟さん、そう言ってたけど……」 「んなわけねーじゃん!な、な、雅紀。俺らも早く部屋の方へ行こうぜ。いちゃいちゃする時間、なくなっちまうし。な?」 「……誤魔化してるし」 雅紀はくすくす笑いながら、小さく呟いた。 暁は内心冷や汗をかきながら ……ひょっとして……俺らの関係は、雅紀の方が強かったりしてな。はは……。 「うわ。やっぱ凄いな、この部屋」 「うん。写真で見て想像してたのより、かなり広いね」 祥悟は智也から手を離し、部屋の中を見て回った。 「へえ……こっちにもっと部屋が続いてんの。うわ。このベッド、なんだよ?映画の撮影でもすんのかよ」 「祥。ここは全面ガラス張りだよ。部屋の中でさっきの夜景が楽しめるね」 洗面ルームを覗き込んでいた祥悟は、戻ってきて智也のいる方を見て、ひゅ~っと口笛を吹いた。 「さすがにここまで凄い部屋に泊まったことねえわ。NYロケの時よりゴージャスじゃん」 智也のすぐ側まで歩いていって、ガラス張りの壁から下界を見下ろしてみる。 煌めく色とりどりの光が、夢のように美しい。 「ねえ、祥」 智也がゆっくりと歩み寄り、ぴたっと隣に寄り添った。肩を優しく抱かれて、智也の顔を見上げると 「雅紀くんと、どんな話をしていたの?」 「んー?……別に。いろいろだし」 「君、まだ早瀬くんのことが、気になるの?」

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