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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」48

「ね、祥。ちょっと、ちょっと待って」 「いいから来いってば」 「いや、流石にそれはまずいよ」 腕を掴んでくる智也の手を振り払い、祥悟は素肌にナイトガウンだけ引っ掛けて、エントランススペースへと向かった。ドアを開けて出ようとすると、智也が追いすがってきてまた腕を掴む。 「やっぱり祥。まずいよ、本当に」 祥悟はくるっと振り返ると、智也の顔を下から睨めつけ 「おまえだって気になってんだろ?だったら勝負すりゃいいじゃん」 「勝負って、そんな、」 「いいから黙って来いって。それとも……自信ないわけ?」 祥悟は挑発するように、智也の胸から下腹までちろっと眺め見ると、ニヤリと笑った。智也は一瞬怯んだ目になったが、ちょっとムスッとして 「自信はあるさ」 「だろ?じゃあ、いいじゃん」 祥悟は言い切って会話を打ち切り、ドアを開けた。 ここのスイートルームは、この階に壁を挟んで対称的に2部屋並んでいる。同じ企画で当選した暁と雅紀の部屋とは、隣合わせなのだ。 廊下に出てふかふかの絨毯を歩いていくと、隣の部屋のドアの前に来た。ドアの前には豪奢な彫刻をあしらったエントランスがある。無駄に金のかかった凝った造りだった。 嫌々ついてきた智也がまた制止しようとするのを睨みつけて、エントランスに入り、ドアベルを鳴らす。 横目に睨んだ智也が、うわぁっという顔をして頭を抱えた。 「そろそろ……起きるか?」 少しだけうつらうつらしていた雅紀が、目を開けてもぞもぞ動いたのを見て、暁は上半身だけ起き上がった。顔を覗き込むと、またシーツで目の下まで隠した雅紀と目が合った。 「うん……随分寝てました?」 「いや。そんなでもねえぜ。まだ眠たいなら……」 「ううん。起きます」 雅紀はキッパリと答えて、シーツで身体を隠しながら身を起こす。柔らかい猫っ毛に寝癖がついていて、ぴょこんっと跳ねているのが何とも愛らしい。 暁は肩を優しく抱いて引き寄せた。 まださっきの名残でとろんとした表情の雅紀と見つめ合い、どちらからともなく唇を寄せる。しっとりと重ねて、穏やかなキスを交わす。触れては離れまた触れ合って、啄むようなバードキス。情欲に突き動かされるような激しいキスも好きだが、こういう静かな戯れも幸せだ。 徐々に深く重ね合い、本格的に唇を割って舌を差し入れようとした時ー。 『ピンポーン』 柔らかい音色のチャイムが鳴った。 上品ではあるが、突然の邪魔入りに、2人同時にビクッとして唇を離し、顔を見合わせた。 「ルームサービス……?」 首を傾げる雅紀に暁は眉を寄せて 「や。んなもん呼んでねーし」 2人同時に、今度はエントランスホールの方を見つめた。

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