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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」49
暁は首を捻り、しぶしぶ雅紀から手を離した。
「おかしいよなぁ。普通はさ、呼んでねーのに来ねえだろ」
「もしかしたら、何かトラブルでもあった……とか?」
「ならせめて電話にしろよなぁ」
せっかくいいムードになってきたのを邪魔されて、暁は少しムッとしながらベッドから出て、部屋着用のナイトガウンを羽織ると
「待ってろ。なんの用か確かめてくるからさ」
雅紀の跳ねた癖っ毛をくしゃっと撫でると、ドアに向かった。
『ピンポーン』と再び鳴るベルに舌打ちしながら、インターフォンのボタンを押す。
「はい。何ですか?」
思わず大人げないムスッとした声が出た。
『暁くん?俺、俺』
聴こえてきた声に、暁はきょとんっとして目を丸くする。
……は?……今、なんつった?俺、俺、って。オレオレ詐欺かよっ
いや。突っ込むところはそこじゃない。
「はぁっ?」
自分を名指しした、この声は……
「祥悟かっ」
『んっふふ。正解~。ね、開けてよ、暁くん』
「ばっ……バカ言うな!つか、なんでおまえが部屋まで来るんだよ?真名瀬さんはどーした!」
『え。智也ならいるよ、隣に。いいから早く開けてよね』
……隣にいんのかよ!真名瀬さん……頼むよ~。
あの跳ねっ返りの悪戯男の轡を、もっとしっかり握っていて欲しい。
「開けるわけねーだろ!いいから自分の部屋に戻れっつーの!」
「えーーー。酷いなぁ…暁くん。いいよ。だったら開けてくれるまで、ベル鳴らし続けるからさ」
『ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン』
いくら上品なチャイムでもこれでは騒音だ。
「おいこら、ふざけんな!やめろっつーの!」
『じゃ、開けて?』
「開けてどーすんだよ?」
『ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン』
暁は髪の毛を掻きむしり
「あーわかったわかった。開けるから鳴らすのやめろっ」
このまま押し問答していると、ホテルの従業員が何事かと駆けつけて大騒ぎになりかねない。
「……暁さん……?」
振り返るとナイトガウンを羽織った雅紀が、不安そうにすぐ後ろまで来ていた。
……くっそー。バカ祥悟っ。
暁は忌々しさに大きくため息を吐き出すと、イライラしながらオートロックのドアをガチャリと開けた。
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