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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」61※

自分がどうして暁や雅紀に妙にちょっかいを出したくなるのか、さっき智也に穏やかに指摘されてようやく自覚した。 たぶん不安なのだ。 智也とこうして1対1で付き合うことになるまで、自分は真剣に恋をしたことがなかった。いや。そもそも、1人の人間とこんな風にじっくり向き合うことすらしてこなかったと思う。 だからどうしていいのか分からない。智也に対してだけではなく、自分の日々揺れ動くこの気持ちすら、どう扱っていいのか戸惑っていた。 姉の里沙に疑似恋愛的な感情を抱いていたことはあるが、あれは一方的で苦しいばかりの想いだった。 想いが通じ合えた相手との交際なんて、人生初なのだ。 ……うわぁ…なんか俺、バカみてえ…。高校生かよ 昔読んだ恋愛小説や漫画で、相手の気持ちが分からなくてじたばたしながら恋する2人のもどかしいすれ違いを、いつも斜に構えて読み流していた。 くっだらねえ…ちゃっちゃと本音をぶつけ合ってえっちでもすりゃいいじゃん…と思っていたのだ。 まさか自分がこの歳になって、こんなもだもだする感情に振り回されることになるとは……。 部屋のベルが鳴って、ルームサービスが到着する。智也はワゴンごと受け取ると、チップを渡してドアを閉めた。 「祥。紅茶でいい?それとも少し、飲むかい?」 「……何、頼んだのさ」 「ワイン」 「……要らない。紅茶でいい」 酒は強くないのだ。こんな状況で飲んで、これ以上胸がドキドキするのはゴメンだ。 紅茶をカップに注ぎトレーに乗せて、智也が近づいてくる。祥悟はテーブル脇のラックに刺してある雑誌を抜き取り、パラパラとめくった。 智也がテーブルに置いてくれたカップを持ち上げ、鼻をひくひくさせる。 「これ、おまえのいつものと香り、違う」 「うん。君の好きなアールグレイじゃないよね」 ひとくち啜って、祥悟は顔を顰めた。 「美味くない。おまえの紅茶のが好きだ」 「ふふ。結構いい茶葉だと思うけどね。君は好みがハッキリしてるから」 智也は笑いながらそう言って、ワイングラスを持ち上げた。 自分と違って智也は酒がかなり強い。ザルなのだ。飲んでも顔色ひとつ変わらない。 祥悟はまったく目に入らない雑誌をゆっくり捲りながら、そっと隣の智也の表情を窺った。こういう時、この男は小憎たらしいくらいポーカーフェイスで、何を考えているのかまったく掴めない。 「なあ……えっち、もうしねえの?」

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