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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」62※

まるで何事もなかったかのような智也の態度に、焦れったくなってきて、思わず聞いていた。その声音が拗ねているように響いて、しまった…と思ったがもう遅い。 智也はワインをひと口飲んでから、ゆっくりとこちらを見る。 「したいの?」 「……別に?おまえがするって言ったんだし」 ぷいっとそっぽを向いてまた雑誌をパラパラ捲ると、智也の手が伸びてきて雑誌を取り上げた。 「っ。何だよ?」 「祥、俺の目、見て?お仕置き、して欲しい?」 「は?なにそれ。お仕置きなんかされたくねーし」 「そう?すごく気持ちいいけどな。ちょっといつもと違うこと、試してみるよ?」 祥悟はぎゅっと眉を寄せ、智也の目を見つめ返した。相変わらずムカつくポーカーフェイスだ。そして見蕩れるくらい、いい顔をしている。智也の声も好きだが、この涼やかで整った顔立ちも好きだ。 「痛くしねえ?」 「もちろん」 「苦しいのもやだ」 「でも死ぬほど気持ちいいかもしれないよ?」 ってことは、きっとちょっとは苦しいのだ。その新しく試すヤツというのは。また最新のエッチ用のオモチャだろうか。 「オモチャ使うの、なし」 「オモチャは使わないよ。俺の身体でちゃんと気持ちよくしてあげる」 無言で見つめ合い、祥悟はまた先に目を逸らした。 「おまえがどうしてもしたいって言うんなら、俺は別にいいけど?」 「君がしたくないなら、やめておこうか」 祥悟はちょっと驚いて、もう一度智也の目を見つめた。 もしかして、お仕置きってのはこれのことなのだろうか?いつもなら、自分のあのセリフを承諾の意だと受け止める智也が、妙に食い下がってくる。 祥悟は心の中でうー……っと唸ると 「だから、したいって、言ってんじゃん。分かれよ、バカ智也」 最後の呟きは聴こえるか聴こえないかぐらいの微かな悪態だ。 智也が腕を伸ばしてきて、抱き締められた。 「じゃあ、してあげる」 大好きな声が耳元で囁く。それだけで期待に胸がざわめいた。祥悟は微かに呻いて、きゅっと首を竦める。 「ちょっ、智也、おまえ道具、使わねえって、」 「じっとしてて。大丈夫。目隠しと手を縛るだけだよ」 それは立派なラブグッズだ。 そういうのをオモチャって言ってるんだろうが。 祥悟は内心舌打ちしながらも、大人しく目隠しと拘束具を付けさせていた。どちらも、智也とのセックスでもう何回も試しているものだ。別に目新しくも何ともない。

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