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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」68
「あの頃の俺はさ、暁くんに抱かれちまってもいいって思ってたよね、きっと」
智也の目が少し傷ついたように揺らめく。
でも本当のことだ。
自分はあの時、本気で暁に抱かれようとしていた。こいつならいいかな、と思ったのは事実なのだ。
「そう……」
「だってさ。誰でもよかったもん。よっぽど嫌なヤツじゃなければ、別に誰でもよかった。誰のことも好きじゃなかったからさ。セックスなんて、ただの遊びだったし」
祥悟は反対に智也の頬を両手で包んで、動揺している智也の瞳をじっと見つめた。
「実際は抱かれてねえし。暁くんにも他の男にも。でもさ、そういうシチュエーションになったらきっと抱かれてた」
「祥、もう、いいよ。変なこと聞いて、悪かった」
智也は苦しそうに目を逸らそうとする。それを許すまいというように、じっと目を合わせたままで
「いいから最後まで聞けよ。目も逸らすなって」
あの頃と同じ、傷ついているのにこちらには悟られまいとしている智也の目を捉えたまま、祥悟はその唇にキスをして
「誰でもよかったのにさ、俺をそうじゃなくしたの、おまえじゃん」
「え……」
「セックスのほんとの意味、俺に教えこんだのお前の癖にさ、なんでそんな顔すんだよ。すげぇ、ムカつく」
「…、祥」
「この俺に、たった1人にしか抱かれたくねえし、好きじゃない相手と寝るなんて、金輪際ムリだーって思わせたくせに、おまえはなんでそーゆー顔するわけ?」
智也の目が見開かれていく。
「祥…」
「あの頃の俺のことを、今の俺に聞くなっつーの。ガキだったんだよ。何にも分かっちゃいなかった。なんでいつもいつもおまえに会いたくなるのかも、全然分かってなかったし」
智也はそろそろと腕を背中に回してきた。祥悟はまた智也にキスをして
「暁くんになんか抱かれたくねえし。おまえじゃねえと、もう気持ちよくねえもん。セックスして気持ちいいのは、身体じゃねえって分かっちゃったからさ。ほんとに気持ちいいのは心だろ?それ知っちまって今さらおまえ以外の誰とえっちすんのさ?」
遠慮がちに回された智也の腕が、ぎゅっと自分を抱き寄せてくれる。
そうなのだ。こうしてエロいこと抜きで抱き締められているだけで、自分は満たされて気持ちよくなれる。
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