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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」69
「おまえこそ、俺がこんなでガッカリしてねえのかよ?恋人……になってさ、ずっと一緒にいるようになって、幻滅……とか、してないわけ?」
智也は抱き締める腕にぎゅっと力を込めてきて、首を横に振った。
「どうして?幻滅なんか、するはずないよ」
「だってさ。俺はモデルやってた時の俺じゃねえし、寝起きはきっと不細工だし、料理とか作ったりしねえし。おまえの理想とはかけ離れてんじゃねーの?おまえ、好きなの、雅紀みたいなやつだろ?」
「ね、祥。君、それよく言うけどどうしてそう思うの?俺の好きなタイプって、君の中ではそういうイメージなのかい?」
ぎゅーっと抱きすくめられて、胸からもぞもぞと顔だけあげて、祥悟は口を尖らせた。
「だって、おまえと真剣交際結婚秒読みってスクープされた女、雅紀みたいなお人形さんタイプだったし。それにさ、一緒に街歩いてる時に、おまえが目で追ったり気ぃ取られる相手って、やっぱ雅紀っぽいやつばっかだったし?」
智也は唖然とした顔で、こちらをまじまじ見下ろしてくる。
「……嘘。そんなはず、ないよ。いや、彼女とはたしかに噂にはなったけど、あれは仕事の付き合いでスタッフだって一緒にいたし、それに」
「誤魔化したって無駄だっつーの。一緒にいたらさ、そういうのって何となく気づくじゃん。おまえが気になる素振りする相手って、絶対に俺みたいなヤツじゃなかったね。分かってるっつの」
智也は、大きくため息をつくと、おでこにそっとキスをしてきた。
「分かってないよ、君は。全然、分かってくれてないな。でも……そうか、あの頃一緒にいて、君はそんな風に俺のこと、気にしてくれたりしていたのか」
なんだかしみじみした嬉しそうな口調でそう言われて、祥悟はハッとした。
……は?……俺、またなんか、余計なこと言ってるんじゃねーの?
「や。別に、気にしてとかそういうんじゃ、なくてさ。何となく感じるっつーか」
「君は俺には、まったく興味はないんだと思ってたな。そばに居ても、別のものを見ている感じだったから」
「…っ、だから~ちげえって。別に俺は、おまえのこと見てたってわけじゃ、」
焦って弁解しようとするこちらの口を塞ぐように、智也は吐息と唇を重ねてくる。ちゅうっと吸われて、思わず「ん…っ」っと呻いてしまった。
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