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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」70

舌を柔らかく絡め合い、お互いの熱を与え、奪う。粘膜が触れる部分から、溶けてひとつになっていくような錯覚が心地いい。 智也が自分に教えてくれたキスは、セックスよりエロくてスイーツより甘い。 そして、すればするほどもっと欲しくなる。気持ちよさの先が知りたくなって、してもしてももっと欲しい。 キリがなくなる。 「……ん……はぁ……」 夢中で絡めていた唇がほどける。鼻先を擦り合わせ、互いの目をじっと見つめ合った。 「おまえ……ずるい……キスで言葉、遮るなっつの」 「ごめん。君が可愛くて、したくなった」 「可愛いって歳かよ……」 智也はふふっと吐息で笑って、こちらの身体を抱き込みながらシーツに転がると 「可愛いよ。君はいくつになってもずっと可愛い」 その口調が本当に愛おしそうに響くから、祥悟は無駄に反論するのをやめた。 抱き込まれて自分より大きな身体にすっぽりと包み込まれ、密着した肌が心地いい。 「俺を、見ていてくれてたの?祥」 「う……見てたし。おまえさ、俺のこと誤解してる。一緒にいた時はおまえのことずっと見てた。前にも言ったろ?おまえは俺の憧れだったんだよ。その顔も身体つきも声もさ」 智也の脚に自分の脚を絡めて、隙間なく全身をぴったりとくっつけてみる。 思わずうっとりと吐息をもらしてしまいそうなくらい心地いい。 満たされる。 「気づかなかったよ。全然分からなかった。いつも自分だけが君を、一方的に見ていたと思ってた」 「おまえ、自己完結し過ぎなんだよね。たぶん俺の方がさ、おまえのこと、ちゃんと見てたんじゃねーの?」 智也の両手で頭を優しく包まれる。おでこにそっとキスされた。 「そうかもしれない。ねえ、祥。俺の好みのタイプはね、ずーっと君だった。君以外の他の誰も、存在していないのと同じで、どうでもよかったんだよ」 「ふーん……。じゃ、雅紀より俺の方がおまえのタイプなわけ?」 「当たり前だよ」 密着していると、智也の声が耳だけでなく肌を通しても伝わってくる。 胸に耳をあててみる。 智也の心音が聴こえて安心する。 「そっか……。じゃ、俺はこれからもおまえのそばに居ていいんだ?」 「もちろん。……いや。離れたいって言っても、もう離してはあげられないかもしれない」 智也の声音が急にぐっと低くなる。祥悟はハッとして上目遣いに智也の表情を窺った。 「君は、悪い男に捕まったのかもしれないよ?自由な羽根をもがれて」 智也は真顔だ。 囁く声が何故か暗い。 「君がもう嫌だって言っても、俺はもう……手放してはあげられないかもしれない」 ……なんだよ、その哀しそうな顔。 愛を囁いているとは思えない、その暗い色を滲ませた瞳をじっと見つめる。 「おまえが悪い男なのは、もうずっと前から知ってるし?」

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