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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」72
苦しそうに囁く智也の顔を、両手で包んで自分の方に向けた。
「んな暗い顔すんなっつの。監禁すればいいじゃん。俺が逃げそうになったらさ。部屋に閉じ込めて鎖で繋いで、ずっと飼ってくれたらいいし?」
智也は息をのみ、目を見開いた。
「っ、祥、ダメだよ、君がそんなこと言っちゃ、」
「どうしてさ?俺は嬉しいけどな。だってそこまで俺に執着してくれんだろ?独占したくてさ、誰の目にも触れさせたくなくて、閉じ込めてずーっと愛してくれるんだろ?俺だけを」
「祥……」
智也は苦しそうに抱き締めてきた。いや、まるでしがみついてくるような感じだ。
「俺はさ。自分が欠けた人間だって思ってたから、その欠けてる部分、埋めてくれるものをいっつも探してた。里沙は違った。あいつは俺の半身だけど、俺のこと無条件で愛してくれるけど、俺のやり方で愛しちゃいけない人だ。絶対に不幸にしちまう。だったら俺の欠けた部分、埋めてくれる人なんかいるのか?……俺はさ、そんなのいないと思ったんだよね。欠けたまま生きていくんだって覚悟してたわけ」
智也が顔をあげてこちらを見る。祥悟はにっこり微笑んで
「でもおまえはさ……埋めてくれるんだろ?満たしてくれるんだろ?俺がガキの頃から、すげえ欲しくても欲しいと思っちゃいけないと思ってたもん、俺にくれるんだよね?」
「祥。あ……祥、俺は、」
「でも俺はそういうの、慣れてないからさ。怖くなって逃げたいとか、思っちゃうかもしれねえじゃん?俺じゃダメかも?って不安になっちまうかも。だからそん時は、俺を逃がさないで閉じ込めてよ。この腕の中に、おまえの中に閉じ込めて、離さないでよ」
智也の顔が大きく歪む。
なんてせつなくて愛おしげな目をしてくれるんだろう、この男は。
「もちろんだ。逃がさないよ。君を、絶対に」
噛みつくように唇を奪われた。
勢い余ってお互いの歯がぶつかる。
酷いキスだ。まるで初めてキスするみたいに不器用で必死で、でも自分を満たしてくれる、埋めてくれる口づけ。
「俺もおまえ、逃がす気ねえから」
舌を唇をちゅっちゅと追いかけて吸いながら囁くと、智也の瞳が嬉しそうに煌めいた。
「ああ……そうしてくれ。俺を君のそばに置いてくれ、ずっと」
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