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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」82
智也はそっとドアを開いてみる。
祥悟はちょうど、頭を洗っていた。
髪の毛はシャンプーの泡で白く覆われていて、濡れた肌にその泡がいく筋も流れ落ちている。無防備に晒したその裸体は、ほっそりとして白い。
……綺麗だな……。
音をさせないようにドアの隙間から身体を滑り込ませ、忍び足で近づいて後ろから抱きついた。
「うわっっ」
祥悟の驚いた声が、風呂場に反響する。振り返ってこちらを見る彼の表情も、完全に意表を突かれた様子だ。
「ば、っか。おまえ、何やってんだよ!」
「ふふ。君こそ何してるの?随分と早起きだね。眠れなかった?」
シャワーのお湯が頭上から降り注ぐ。彼の泡だらけの髪の毛から、こちらに泡が飛んできた。部屋着はずぶ濡れだ。
「おまえが何やってるの、だろ。あー……びっくりした。心臓止まったし」
祥悟はぷりぷり怒っている。
当たり前だ。
まるで子どもみたいな悪戯になってしまった。
でも、そっと捕まえたかったのだ。君が飛び立ってしまわないように。
「君が隣にいないから、驚いた」
「目ぇ覚めたから、シャワー浴びてただけだっつーの。ほら~、離せよ。おまえ、泡だらけになってんじゃん」
祥悟が腕の中で身をよじる。
嫌だ。離したらまたいなくなってしまう。
しがみつくようにして手を離さないこちらの態度に、祥悟は呆れたように鼻を鳴らした。
「も~。何なの?おまえ、今さら甘えん坊かよ」
「うん。寂しかった」
「くく。子どもかっつーの」
祥悟は身体を左右にくねらせながら、とうとう噴き出した。
「横で寝てないくらいで拗ねるなっつの」
「だって先に起きて、君の寝顔を見ていたかったのに」
「駄々っ子かよ。俺だってたまには早起きするし?」
後ろから回した手で、祥悟の胸元をまさぐる。擽ったがって身をよじるのを押さえ込んで、胸の尖りをきゅっきゅと摘んだ。
「っ、やめ、触んな」
「どうして?触っちゃだめかい?」
祥悟はこちらを横目でちろっと睨んで、ため息をついた。
「おまえさ、結構、わがままだよな。今まで隠してただろ?」
「隠してないよ。出さないようにはしてたけど」
祥悟は吐息だけでふふっと笑うと
「そんなに俺のこと、好きかよ?」
「うん。好きだよ。自分でも呆れるくらい、君が好きだ」
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