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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」83
「ふふ。おまえって可愛い」
満足そうに微笑む祥悟のひと言に、智也は目を丸くした。
「可愛い?……俺が?」
祥悟はこちらの問いかけに笑うだけで答えず、伸び上がってちゅっとリップ音をたててキスをして
「悪戯はお預け、な。この後、ちょっと大変なのって、おまえ分かってる?」
「え……?この後って」
「この特別招待のラストってさ。モーニングバイキングだろ?」
「あ……ああ。でも、大変って何が」
祥悟はちょっと呆れたようにため息をつくと
「やっぱ分かってねえのかよ。昨日さ、このホテルに来た時、俺らってどんなだったよ?」
……どんなだったって……。
智也は首を傾げた。その頭を祥悟に軽くこづかれる。
「いたっ」
「すっとぼけてんなよ。おまえはともかく俺は女だっただろ?」
智也は、ハッと目を見開いた。
そうだった。あれからいろいろありすぎて、すっかり忘れていたが、祥悟はカモフラージュの為に女装していたのだ。
「ああ……じゃ、モーニングでもやっぱり女装しないと……かな」
「まあ、普通に考えたらそうだろ。特別招待客なんだし?昨夜みたいにさ、それ専用の席に案内されんだろ」
智也は頷きながら、シャワーのお湯で、髪の毛の泡を洗い流している祥悟をまじまじと見つめた。
服やウィッグはある。だが、あの女装は里沙にコーディネートしてもらって、彼女の知り合いのスタイリストに手伝ってもらったのだ。果たしてあれと同じ髪型や化粧が出来るだろうか。
「あ……でも……化粧なら、君も出来るだろう?ウィッグをつければある程度は誤魔化しがきくと思うけど……」
一応、自分も祥悟もモデルだったのだ。プロのスタイリストのようにはもちろん無理だが、それなりに自分の見せ方は知っているし、ちょっとした化粧ぐらいなら出来る。
「そ。俺はね。昨日ほど完璧じゃないけどな。でも、あいつらはどうよ?雅紀のあのやたら凝った女装。誰にやってもらったか知らねえけど、あれ、また自分たちで出来るわけ?」
「ああ……なるほど」
そういうことか。彼らの心配をしているのか、祥悟は。
「だからこっちの女装はちゃっちゃと済ませてさ。雅紀の方、手伝ってやろうと思ったんだよね」
身体を洗い始めた祥悟の、小さくてきゅっと引き締まった綺麗なお尻を見ながら、智也はまた首を傾げた。
なんとなく、怪しい。
祥悟の思いつきは、ただの親切心だろうか?この気まぐれ猫が、彼らのことを心配して、わざわざ早起きまでするとは……思えない。
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