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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」87

「おいこら待て。どこ行くんだよ!雅紀には会わせねえぞ」 暁は祥悟の行く手を阻むべく、必死で通せんぼをしている。 ……無駄だとは思うけど。 「もぉ…。その、雅紀は俺のもんだ的独占欲、剥き出しにするのやめてくれる?」 「何言ってやがる!雅紀は俺のもんだ。別に間違ってねえぞ」 祥悟は押し留めようとする暁の手をペシっと叩いて振りほどき、腰に手をあてて呆れたように暁を斜めに見上げた。 「はぁ?信じらんない、そういうこと言っちゃうんだ?雅紀は誰のものでもないでしょ。俺の所有物とか人格無視な発言、雅紀に失礼じゃない?」 暁は、う……っと言葉を詰まらせた。 「そういう男ってね、そのうちうっとおしがられて、捨てられちゃうんだけど?」 祥悟はすっかり身支度を整えて、昨日の完璧な女装姿になっている。 ウィッグをつけ、化粧を施し、ロングタイトスカートのスリットから、ほっそりとした形のいい脚を見せつけるようにして立つ姿は、どこからどう見ても美しい女性だ。 案の定、暁はすっかり気圧されて、たじたじになっている。 ……もう……暁さんったら……。 壁からこっそり様子を窺う雅紀は、そっとため息をついた。 自分がピンチの時には、何が何でも駆けつけて颯爽と救ってくれる頼もしい恋人だが、祥悟が相手だといつもああだ。 言い負かされてムキになった挙句に、結局は祥悟の思惑通りになっている気がする。 「う……。雅紀はうっとおしがったりしねえっつの。おまえと一緒にすんな」 祥悟はちっちっと舌打ちしながら、暁の顔の前で人差し指を揺らしてみせて 「お互いの存在を尊重し合える大人な関係はね、つまらない独占欲で相手を縛ったりしないものなの」 どの口が言う?っと、雅紀は内心すかさず突っ込んだ。昨夜、智也が自分にキスしようとしただけで、ものすごい焼きもちを妬いたのに。 暁もまったく同じことを感じたらしい。 したり顔の祥悟の指をパシっと払い除けると 「おまえなぁ。そういう自分はどうなんだよ?真名瀬さんのこと、自分のもんだって思ってんだろうが」 祥悟はふふんっと鼻先で笑って 「思っててもそういうこと、暁くんみたいにあからさまに出したりしないし?」 「やっぱ思ってんのかよ!」 雅紀も心の中で、暁と同時に突っ込んでいた。 「で?それより雅紀はどこさ?奥にいるんだよね?」 祥悟は暁の突っ込みをさらっと無視して、また暁の横を通り抜けて部屋に入ろうとしている。 ……今の押し問答……する必要あったのかな……。 雅紀はガックリと肩を落とした。

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