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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」92
「え……だって里沙さんって。……え。待って、じゃあ今回の特別招待チケットのこと、里沙さんに言ってました?」
祥悟は怪訝そうに首を傾げた。
「言ったよ?チケット見せてさ、これ行きたいから完璧な女装、プロデュースしてって頼んだし?」
雅紀は鏡の中の祥悟の顔をじ……っと見つめた。
……じゃ、祥悟さんと真名瀬さん、俺たちが同じ招待チケット当たったの、知ってたって……こと?だって……。
「何でそんな難しい顔してんのさ?里沙がどうかしたわけ?」
祥悟の不思議そうな表情に裏はない気がする。雅紀はちょっと迷ってから
「あの……実は俺のこの女装も、実は里沙さんにメイクとかコーディネートをお願いしてて……」
祥悟の顔が唖然とする。
「は?……なにそれ。じゃあ里沙のやつ……」
「うん。知ってたんですね、里沙さん。今回のイベントで俺たちが鉢合わせするって」
一瞬の間の後、祥悟はおでこを押さえて笑いだした。
「くっそ~。やられた。そっか。里沙のやつ、知ってて面白がってたんだ?」
雅紀もつられて苦笑いして
「そうみたいですね。もしかして、女装した場所って、青山の里沙さんのスタジオルームですか?」
「そ。里沙の方から時間指定されてさ」
「それ、俺たちもです……」
雅紀は祥悟と顔を見合わせて笑った。
里沙は両方から同じことを頼まれて、どちらにも内緒にしていたわけだ。鉢合わせにならないように、2組を呼ぶ時間をズラして。
「ま、いいや。その件は後で里沙に問いただしてやる。急ぐよ、マジで時間ない」
祥悟は気を取り直すと、いったん離れてメイク道具を取りに行く。
……や。祥悟さんが途中で脱線して悪戯とかしなきゃ、時間、余裕あったんですけど。
雅紀はふぅ……っとため息をつくと、太ももの上の際どいラインについているキャミソールのフリフリの裾を、両手できゅっと引っ張った。
「彼らが気になる?落ち着かないみたいだね」
窓際に置かれた応接セットのソファーで、洗面ルームの方ばかり気にしてちらちら見ている暁に、智也は苦笑しながら話しかけた。暁はひょいっとこちらを見て首を竦め
「そりゃあ……祥悟ですからね。真名瀬さんには悪いけど、俺はあいつのこと、まったく信用出来ないんで」
「ふふ。分かるよ。悪戯っ子だからね、祥は」
智也がのほほんとそう言うと、暁は、はぁ……っとため息をついた。
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