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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」93

あいつは悪戯っ子なんて可愛いもんじゃない、と、暁の顔が言っている。 でも智也にとって祥悟は、やっぱり天使みたいに可愛い恋人なのだ。 「お仕置き……したんですか?あいつに」 暁がちょっと探るような目で聞いてくる。 「あー……ああ、まあね。やり過ぎて泣かれてしまってね、ちょっと弱ったよ」 途端に、暁が白目を剥いて仰け反った。 ……そんなに驚くようなことを、自分は言っただろうか。 「泣いた……あいつが?はぁ……真名瀬さん、あんたやっぱり凄い人だな。そっか……泣いたのかよ、あいつが」 暁はしきりに感心している。 「ところで雅紀くんのメイクって、どこでやってもらったんだい?プロに頼んだのかい?」 「あー……あれは、実は里沙さんにお願いしたんですよ。俺ら2人とも化粧なんかしたことなくて、手に負えないんで」 今度は智也が目を見開いた。 「里沙……。そうか、そうだったのか」 なるほど。そうすると里沙は知っていたわけだ。自分たちと彼らが同じ場所で鉢合わせするかもしれないと。 ……まったく……。姉弟揃って悪戯っ子だな。 「そろそろ……出来たんじゃないっすかね」 暁がそわそわと腰を浮かす。 「どうかな。出来たら顔を出すと思うんだけど。ちょっと覗きに行ってみようか?祥があの格好で雅紀くんにメイクしてるのって、何となくそそられるし」 「へ……?そそられる?」 「うん。だってすごく妖しい光景だと思わないかい?男の子同士で向かい合って化粧してるのって。2人ともタイプは違うけど美人だからね。すごく倒錯的で美しいと思うよ」 暁は真顔でこちらをじっと見つめている。 ……何だろう。また自分は何かおかしな事を言っただろうか。 「君は……思わない…かな……?」 暁は我に返ったような顔になって、ブルンブルンと首を横に振り 「や。いやいや。すっげー思います。うん、たしかに。めちゃくちゃそそられる光景だわ、それ。つーか、真名瀬さんてやっぱ……なんつーか……マニアック?いや、達人なのか。そうか……俺、その発想はまったくなかったぜ。うわ。想像するとやばいな、それは」 智也はふふっと笑って 「祥に見つかると怒られちゃうからね。気づかれないように、そっと覗いてみよう」 智也が立ち上がって洗面ルームに向かうと、暁もすかさず後についてきた。

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