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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」94

「ほら。じっとしてて」 またたしなめられた。 でもじっとなんて出来そうにない。 メイクしずらいからと言われて、何故か洗面台に座らされた。下着と透けたキャミソールだけの姿では恥ずかしくて、服を着たいと言ったら「汚しちゃうでしょ」とあっさり却下された。 こんな格好で洗面台に座って、祥悟と向かい合わせになっていると、昨夜の暁との行為を思い出してしまって、ちょっと落ち着かない。 「足、開いてて。邪魔」 祥悟は言いながらこちらの膝を無遠慮に左右に割ると、滑り込むように足の間に割り込んできた。 ……や。ちょっと、あの…… じっと顔を見つめてくる祥悟の表情は真剣そのものだ。でもこの体勢で息がかかるほど間近に彼の綺麗な顔があると、どこに視線を持っていっていいのか……困る。 雅紀は顔を微妙に逸らし、目をうろうろと泳がせた。 「真っ直ぐ見ててね」 頬を両手で包んで祥悟の方を向かされる。 近い。近すぎる。 ……やっぱ、祥悟さんって綺麗だな……。 元モデルさんなのだ。普段のナチュラルな姿でも、普通の人にはない独特のオーラがあるが、こうしてビシっと化粧して真顔でいると、見惚れるくらい美しい。 「ふーん。雅紀やっぱ肌が綺麗だね。キメ細やかで全然荒れてない。これは化粧し甲斐あるな」 祥悟はアメニティの小瓶から液体をパッドに染み込ませて、ほっそりとした美しい指先で丁寧に顔に塗り込んでくれた。大きめの化粧ポーチから、何に使うのか分からないものを取り出して横に並べていく。 「や。祥悟さんこそ、すっごい綺麗です」 雅紀がドギマギしながらそう言うと、祥悟はちょっと目を見張ってから、ふふんっと笑って 「なに、雅紀。そんな赤くなってんのさ。もしかして、俺に惚れちゃった?」 低い声で囁きながら、唇が触れそうなくらい顔を寄せてくる。 ……や。祥悟さん。そんな雄っぽいイケボで囁かれても。 完璧な美女の口から出る低くて色っぽい男の声。やっぱりなんだか妖しくて、変な気分になってくる。 何も言えずにあわあわしている雅紀の太ももに、祥悟が手を置いた。 「そういう可愛い反応。男としては妙にそそられちゃうんだよね。雅紀ってさ、やっぱ罪作りだし」 置いた手でさわさわと撫でてくる。色気のある目でじっと見つめられて、目が離せない。 ……や、ダメですってば。そんなとこ、触っちゃ 下着をギリギリで隠しているキャミソールの裾のフリルを、祥悟の指が弄んでいる。太ももが擽ったくてムズムズする。

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