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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」95
「ふふ。雅紀、もしかして…感じてる?」
祥悟は妖しい低音イケボで囁きながら、裾のフリルを掻き分けて、指先を奥へと滑らせていく。
……やっ、待って。ダメっ、その先はっ
雅紀は逃れようとして、尻をモジモジ動かしながら後ずさった。だが、すぐ後ろには鏡があって、直ぐに追い詰められる。
祥悟の指先が、ショーツに包まれたソコを掠める。
「やっ、だめっ、ダメです!祥悟さんっさわ、触っちゃ、だめっっっ」
雅紀は堪らず上擦った声で悲鳴をあげた。
祥悟の指の動きがピタッと止まる。
「もう……そんな声出さないでよ。暁くんが来ちゃうじゃん」
……いや、むしろ、来て欲しいんですけどっ
「仕方ないなぁ。今度さ、暁くんに内緒でデートしよ?」
……いやっ。しないですってば。
祥悟はご機嫌に片目を瞑ってみせると、太ももに置いた手を離して、化粧の続きを再開した。雅紀は強ばっていた全身から力を抜く。
「よし。ベースはこれでいいかな。後は目と口ね。あの服のイメージに合うように明るくて柔らかい雰囲気にしようか」
真剣な眼差しに戻った祥悟は、手馴れた様子でアイメイクをしていく。雅紀は指示通りに目を瞑ったり開けたりしながら、祥悟の綺麗な顔にまた見蕩れていた。
「んー。こんな感じかな。後で智也にチェックしてもらうからさ。最後は唇」
祥悟はちょっと離れて、顔全体を眺めてから、小さめの絵の具のパレットのような物を開いた。
「わ……すごい……いろんな色、あるんですね」
「うん、これ、仕事用のやつね。んー……色味はやっぱピンク系かな。これとか、これ。ローズ系の明るめの色がいいよね」
祥悟は筆で口紅をすくうと
「唇、ちょっと開いてじっとしてて」
雅紀は素直に言われた通りにした。祥悟の顔が近づいてくる。
「……っ、んっ」
唇に触れたのは、リップブラシではなかった。柔らかい感触がそっと押し付けられ、ちゅぷっと唇全体を包まれて、直ぐに離れた。
「っ」
目の前の祥悟の顔が、悪戯に成功した子どもみたいに楽しげに笑う。
「ふふ。美味しそうだったから、ちょっとだけつまみ食い」
……また、キス、されちゃった……
油断していた。祥悟に隙を狙われるのは、これでもう何度目だろう。
「暁くんには内緒な」
当然だ。こんなこと知ったら、暁が拗ねる。
「もう……祥悟さんのばか。浮気はダメですってば」
「軽いフレンチ・キスでしょ。こんなの挨拶みたいなもんだし」
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