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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」97

「さ。出来たよ。こんなもんでしょ」 祥悟は満足そうに微笑んで、身体を起こした。近すぎる距離から解放されて、雅紀はほっと緊張を解いた。 「あとで智也にチェックしてもらうけどさ。どう?鏡見て?」 雅紀は頷いて、洗面台から降りた。振り返って鏡を見る。 ……わ……。 昨日とはまた雰囲気の違う化粧だが、ふんわりと柔らかい明るい印象だ。 雅紀は鏡を覗き込んで、自分の顔をまじまじと見つめた。 ……うわぁ……これ、俺……? 昨日、プロにやってもらった時も驚いたが、この仕上がりもすごい。 「俺じゃないみたいだ……」 「顔はそんなに変えてないけど?雅紀ってさ、肌が綺麗だからね。化粧のノリがよくてやってて楽しかったし」 「ありがとうございます。祥悟さん」 祥悟の方を向くと、両手で腕を掴まれた。 「雅紀。お礼のキスは?」 「……へ?」 「こんな可愛くしてあげたんだからさ。君から甘いキス、してよね」 雅紀は首を傾げて固まった。 ……や。しないです。キスなんか。 「ん~?」 祥悟がぐぐーっと顔を近づけてくる。 やっぱりすごい美人だ。こんな間近で見ても、男とは思えない。 「早く」 「しないです。浮気です、それは」 「挨拶だっつーの。君からしてくれないならさ、本気のキス、しちゃうよ?その気になっちゃうようなエロいやつ」 雅紀は、ちらっとドアの方を見た。 薄く開いたドアの隙間から、そっとこちらを覗き込んでいる暁の姿が見えた。 ……もー……。見てるんならどーして止めてくれないんですか! 雅紀はぷっと頬をふくらませると、祥悟の目をじっと見返して 「いいですよ。キス、します。すごいやつ」 雅紀の宣言に、祥悟は一瞬驚いたように目を見張り、すぐに楽しげに瞳を煌めかせた。 「ふふ。いいね。じゃあして?身体の芯がさ、熱くなるようなのをね」 雅紀はこくんっと頷くと、祥悟の両腕をこちらから掴んでぐいっと引き寄せた。 そのまま、艶やかなルージュの唇に、自分の唇を重ねる。 見開いていた祥悟の瞳が、とろりと細くなる。雅紀も同じように薄く目を開けたまま、顔の角度を変えた。 触れるだけの口づけが、しっとりと重なり合う。祥悟の唇が誘うようにうっすら開いた。その隙間にチロっと舌先を入れてみると、祥悟は更に唇を開き、自分の舌先を合わせてくる。 互いのルージュの香料が、甘く鼻をくすぐった。腕を掴む手にぎゅっと力を込め、祥悟の身体をもっと引き寄せる。 唇の重なりが一気に深くなった。

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