143 / 175
バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」97
「さ。出来たよ。こんなもんでしょ」
祥悟は満足そうに微笑んで、身体を起こした。近すぎる距離から解放されて、雅紀はほっと緊張を解いた。
「あとで智也にチェックしてもらうけどさ。どう?鏡見て?」
雅紀は頷いて、洗面台から降りた。振り返って鏡を見る。
……わ……。
昨日とはまた雰囲気の違う化粧だが、ふんわりと柔らかい明るい印象だ。
雅紀は鏡を覗き込んで、自分の顔をまじまじと見つめた。
……うわぁ……これ、俺……?
昨日、プロにやってもらった時も驚いたが、この仕上がりもすごい。
「俺じゃないみたいだ……」
「顔はそんなに変えてないけど?雅紀ってさ、肌が綺麗だからね。化粧のノリがよくてやってて楽しかったし」
「ありがとうございます。祥悟さん」
祥悟の方を向くと、両手で腕を掴まれた。
「雅紀。お礼のキスは?」
「……へ?」
「こんな可愛くしてあげたんだからさ。君から甘いキス、してよね」
雅紀は首を傾げて固まった。
……や。しないです。キスなんか。
「ん~?」
祥悟がぐぐーっと顔を近づけてくる。
やっぱりすごい美人だ。こんな間近で見ても、男とは思えない。
「早く」
「しないです。浮気です、それは」
「挨拶だっつーの。君からしてくれないならさ、本気のキス、しちゃうよ?その気になっちゃうようなエロいやつ」
雅紀は、ちらっとドアの方を見た。
薄く開いたドアの隙間から、そっとこちらを覗き込んでいる暁の姿が見えた。
……もー……。見てるんならどーして止めてくれないんですか!
雅紀はぷっと頬をふくらませると、祥悟の目をじっと見返して
「いいですよ。キス、します。すごいやつ」
雅紀の宣言に、祥悟は一瞬驚いたように目を見張り、すぐに楽しげに瞳を煌めかせた。
「ふふ。いいね。じゃあして?身体の芯がさ、熱くなるようなのをね」
雅紀はこくんっと頷くと、祥悟の両腕をこちらから掴んでぐいっと引き寄せた。
そのまま、艶やかなルージュの唇に、自分の唇を重ねる。
見開いていた祥悟の瞳が、とろりと細くなる。雅紀も同じように薄く目を開けたまま、顔の角度を変えた。
触れるだけの口づけが、しっとりと重なり合う。祥悟の唇が誘うようにうっすら開いた。その隙間にチロっと舌先を入れてみると、祥悟は更に唇を開き、自分の舌先を合わせてくる。
互いのルージュの香料が、甘く鼻をくすぐった。腕を掴む手にぎゅっと力を込め、祥悟の身体をもっと引き寄せる。
唇の重なりが一気に深くなった。
ともだちにシェアしよう!