144 / 175
バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」98
傍らで息をひそめていた暁が、ぐっと身を乗り出す。
……あ。さすがにこれは、ダメかな。
智也は押さえていた暁の上着の後ろを離した。待てをさせられていた番犬が、ドアに飛びつく。
「こらーーー。おいこらこら、待てっ」
バタンっとドアを開けて、暁が喚きながら飛び込んでいく。
2人が唇を離し、こちらを見た。
どちらもさほど驚いた表情はしていない。
こっそり覗いていたのはバレバレだったわけだ。
祥悟がこちらを見て、ニヤリと笑った。
……もう……君、悪戯が過ぎるよ……。
「まっっ、雅紀っっ」
暁は、祥悟から奪い取るようにして、雅紀の身体を抱き寄せた。
「あ。暁さん」
「あ、暁さん、じゃねーっつの。今、何してた!しょ、祥悟と、キキキス…っ」
「やだなぁ、暁くんったら覗き見?趣味悪いんですけど?」
「うううるせーっ。祥悟っ、てっめーよくも雅紀の可愛い唇をっ」
「メイクのお礼貰っただけだし?それより暁くん、もう時間なくなるよ」
祥悟は噛み付く暁をさらりとかわして、優雅な動作でこちらに歩いてくる。
「雅紀ーーー。おま、唇っ、穢れちまっただろっ」
暁は情けない声でそう言うと、雅紀をヒシっと抱き締め頬擦りする。
「暁さん、だめ。せっかくしてもらったお化粧、とれちゃいます」
「んなことどーでもいいっ。消毒してやらねーとな、可哀想に」
暁は頬を離し、雅紀の顔を覗き込むと
「あいつの毒は俺が吸い出してやる」
高らかに宣言して、雅紀の唇を奪った。
「っ、んーっ」
隣まできた祥悟が呆れ顔で目を合わせてから振り返り
「あーあ。何やってるんだか、暁くんったら」
雅紀は驚いて呻き、じたばたともがいているが、デカいわんこは彼をヒシっと抱き締めて、離そうとしない。
「君ね……また早瀬くんに恨まれるよ」
智也がため息をつきながらそう言うと、祥悟はふふんっと鼻を鳴らして
「でも、いいもの見せてあげたでしょ?化粧だって可愛くしてあげたし。恨むどころか感謝して欲しいんだけどね」
智也は手を伸ばして、祥悟の唇に指先でそっと触れた。
「なに?」
「口紅、ちょっと乱れてる」
祥悟は口の端をあげてにぃーっと笑うと
「後で直してよ」
「いいよ。でもその前に、俺も君の消毒だ」
祥悟は首を竦めると、顔を近づけてくる。
智也は肩をぐいっと引き寄せ、紅い唇にキスを落とした。
ともだちにシェアしよう!