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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」98

傍らで息をひそめていた暁が、ぐっと身を乗り出す。 ……あ。さすがにこれは、ダメかな。 智也は押さえていた暁の上着の後ろを離した。待てをさせられていた番犬が、ドアに飛びつく。 「こらーーー。おいこらこら、待てっ」 バタンっとドアを開けて、暁が喚きながら飛び込んでいく。 2人が唇を離し、こちらを見た。 どちらもさほど驚いた表情はしていない。 こっそり覗いていたのはバレバレだったわけだ。 祥悟がこちらを見て、ニヤリと笑った。 ……もう……君、悪戯が過ぎるよ……。 「まっっ、雅紀っっ」 暁は、祥悟から奪い取るようにして、雅紀の身体を抱き寄せた。 「あ。暁さん」 「あ、暁さん、じゃねーっつの。今、何してた!しょ、祥悟と、キキキス…っ」 「やだなぁ、暁くんったら覗き見?趣味悪いんですけど?」 「うううるせーっ。祥悟っ、てっめーよくも雅紀の可愛い唇をっ」 「メイクのお礼貰っただけだし?それより暁くん、もう時間なくなるよ」 祥悟は噛み付く暁をさらりとかわして、優雅な動作でこちらに歩いてくる。 「雅紀ーーー。おま、唇っ、穢れちまっただろっ」 暁は情けない声でそう言うと、雅紀をヒシっと抱き締め頬擦りする。 「暁さん、だめ。せっかくしてもらったお化粧、とれちゃいます」 「んなことどーでもいいっ。消毒してやらねーとな、可哀想に」 暁は頬を離し、雅紀の顔を覗き込むと 「あいつの毒は俺が吸い出してやる」 高らかに宣言して、雅紀の唇を奪った。 「っ、んーっ」 隣まできた祥悟が呆れ顔で目を合わせてから振り返り 「あーあ。何やってるんだか、暁くんったら」 雅紀は驚いて呻き、じたばたともがいているが、デカいわんこは彼をヒシっと抱き締めて、離そうとしない。 「君ね……また早瀬くんに恨まれるよ」 智也がため息をつきながらそう言うと、祥悟はふふんっと鼻を鳴らして 「でも、いいもの見せてあげたでしょ?化粧だって可愛くしてあげたし。恨むどころか感謝して欲しいんだけどね」 智也は手を伸ばして、祥悟の唇に指先でそっと触れた。 「なに?」 「口紅、ちょっと乱れてる」 祥悟は口の端をあげてにぃーっと笑うと 「後で直してよ」 「いいよ。でもその前に、俺も君の消毒だ」 祥悟は首を竦めると、顔を近づけてくる。 智也は肩をぐいっと引き寄せ、紅い唇にキスを落とした。

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