145 / 175

バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」99

「じゃね、暁くん。モーニング、遅れないようにね」 キスを解くと、祥悟は暁に向かって投げキスをして、クルリと背を向ける。 暁は怒った雅紀に腕の中から逃げられて、ポカスカ殴られていた。 「てめえっ、祥悟っ、おいこら待てっ」 「んもぉおお~。暁さんのバカっ。人前でそういうこと、しないですってばっ」 智也は暁に向かって首を竦め苦笑いすると、先に出て行った祥悟の後を追った。 部屋に戻って、そのまま洗面所に向かう祥悟の腕を掴む。 「何さ?」 「いや。満足した?」 祥悟はニヤッと笑って首を竦め 「別に?雅紀のメイクは楽しかったけど。あの子ってやっぱり綺麗な顔してる。化粧のしがいがあるよね」 「君も雅紀くんもまったく違うタイプの美人だからね。2人であんな風にしてると、ちょっと背徳的でドキドキしてしまうよ」 智也がさっきの光景を思い出して頬をゆるめると、祥悟はうわぁ…という顔をして 「おまえってさ。変な趣味してるよね」 「え……そうかな?変かい?すごく蠱惑的だったし、写真に残しておきたかったくらいなんだけどね」 祥悟は眉を顰めて横目で睨んでいたが、急に思い出し笑いをして 「ふふ。今度さ、雅紀と2人っきりでデートする約束したんだよね。暁くんには内緒で」 「え?それは……ちょっと無理なんじゃないのかな。あの番犬くんが雅紀くんから目を離すとは思えないけど……」 祥悟は途端に悪戯そうに瞳を煌めかせ 「そこら辺はさ、ちゃんと考えてるし?」 上目遣いでこちらを見上げる祥悟の企み顔に、勝算ありと書いてある。 ……なるほど。さっき雅紀くんにちょっかい出しながら、もう次の悪戯を思いついていたのか。 智也は内心、ため息をついた。 ……早瀬くんも気の毒に。この悪戯仔猫に気に入られすぎだ。 「祥。そろそろ本当にタイムリミットだよ。メイク、直してあげるから急ごう」 「んー。わかった」 祥悟はご機嫌な音色で答えると、化粧道具を台の上に置いて、こちらに顔を突き出した。 「なあ……ご機嫌直せって~……」 暁はすっかりしょげきって、耳の垂れた大きなワンコのようになっている。 雅紀はちろ…っと横目で睨み 「暁さん、ムキになりすぎです。だから祥悟さん、面白がっていろいろしてくるんだし」

ともだちにシェアしよう!