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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」99
「じゃね、暁くん。モーニング、遅れないようにね」
キスを解くと、祥悟は暁に向かって投げキスをして、クルリと背を向ける。
暁は怒った雅紀に腕の中から逃げられて、ポカスカ殴られていた。
「てめえっ、祥悟っ、おいこら待てっ」
「んもぉおお~。暁さんのバカっ。人前でそういうこと、しないですってばっ」
智也は暁に向かって首を竦め苦笑いすると、先に出て行った祥悟の後を追った。
部屋に戻って、そのまま洗面所に向かう祥悟の腕を掴む。
「何さ?」
「いや。満足した?」
祥悟はニヤッと笑って首を竦め
「別に?雅紀のメイクは楽しかったけど。あの子ってやっぱり綺麗な顔してる。化粧のしがいがあるよね」
「君も雅紀くんもまったく違うタイプの美人だからね。2人であんな風にしてると、ちょっと背徳的でドキドキしてしまうよ」
智也がさっきの光景を思い出して頬をゆるめると、祥悟はうわぁ…という顔をして
「おまえってさ。変な趣味してるよね」
「え……そうかな?変かい?すごく蠱惑的だったし、写真に残しておきたかったくらいなんだけどね」
祥悟は眉を顰めて横目で睨んでいたが、急に思い出し笑いをして
「ふふ。今度さ、雅紀と2人っきりでデートする約束したんだよね。暁くんには内緒で」
「え?それは……ちょっと無理なんじゃないのかな。あの番犬くんが雅紀くんから目を離すとは思えないけど……」
祥悟は途端に悪戯そうに瞳を煌めかせ
「そこら辺はさ、ちゃんと考えてるし?」
上目遣いでこちらを見上げる祥悟の企み顔に、勝算ありと書いてある。
……なるほど。さっき雅紀くんにちょっかい出しながら、もう次の悪戯を思いついていたのか。
智也は内心、ため息をついた。
……早瀬くんも気の毒に。この悪戯仔猫に気に入られすぎだ。
「祥。そろそろ本当にタイムリミットだよ。メイク、直してあげるから急ごう」
「んー。わかった」
祥悟はご機嫌な音色で答えると、化粧道具を台の上に置いて、こちらに顔を突き出した。
「なあ……ご機嫌直せって~……」
暁はすっかりしょげきって、耳の垂れた大きなワンコのようになっている。
雅紀はちろ…っと横目で睨み
「暁さん、ムキになりすぎです。だから祥悟さん、面白がっていろいろしてくるんだし」
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