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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」100

「や。だっておまえ、あいつとキスするなんてさ。ひでーじゃん」 暁がいじいじしながら愚痴る。雅紀はぷっと頬をふくらませた。 「暁さん?」 「う。……はい」 「俺が祥悟さんに絡まれてるの、いつから覗き見してたんですか?」 両腕を組んで仁王立ちすると、暁はますますしおしおと肩を落とし、大きな身体を縮こまらせた。 「や、だってさ、あれは真名瀬さんが」 「真名瀬さんが?何ですか?」 「う……。いや、何でもないです」 「祥悟さん、ちょっと変なことしてきたけど、すっごい丁寧に綺麗に、俺の顔作ってくれましたよ」 暁は上目遣いに顔をじーっと見つめてきて 「んー。ま、たしかにな。そのメイク、おまえの雰囲気活かして、すっげーいい感じになってるけどさぁ」 「でしょ?流石ですよね。俺、自分じゃ絶対にこんなの出来ないし。尊敬しちゃいます」 暁は口を尖らせて 「尊敬、だけか?おまえ、祥悟にさ、ちょっと惚れてるだろ……」 雅紀は、大袈裟にため息をついてみせた。 「もぉ……お馬鹿ですか、暁さん。そんなわけないでしょ?俺が惚れてるのは暁さんと秋音さんだけです。死ぬまでずーっと俺の気持ちは変わらないです」 「ま……雅紀~」 雅紀はにこっと笑って両手を差し出した。 「ぎゅって、してください。俺のこと。暁さんの為に、こんな格好してるんですからね、俺」 暁の背後で大きな尻尾がふりふりし始めた……ように見える。 「雅紀っ」 ガバッと飛びつくようにして、抱き締められる。この大きな身体にすっぽり包まれると、ものすごく安心出来るのだ。 雅紀はくったりと力を抜いて、暁の胸にもたれかかった。 「あーやっぱ俺、おまえ大好きだ。こうしてるとさ、それだけですっげー満たされる」 それは自分も同じだ。 互いの温もりと鼓動と感じていられる幸せ。そういう相手と巡り会えた奇跡。そのことにしみじみと感謝したくなる。 暁が少し腕の力をゆるめ、ゆっくりと顔を近づけてくる。 「ちょこっとだけですよ。お化粧、取れちゃいます」 釘を刺すと、暁は照れたように苦笑して 「わかってるっつの。雅紀、愛してるぜ」 「俺も、愛してます。暁さん」 そっと触れるだけの優しいキス。この続きは、家に帰ってからだ。 非日常的な素敵な空間はたっぷり堪能した。また穏やかで幸せな日常は、これからも続いていくのだ。 「服着て、行くか」 「うん」 雅紀は頷くと、壁のフックに掛けてあるふわふわのドレスに目をやった。

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