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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」101

「ね、おかしくないですか?」 会場に入ると、係に案内されて歩く暁の服の裾をちょいちょいと引っ張り、小声で聞いてみた。 暁はにかっと笑って 「大丈夫だって。全然おかしくねえよ。どっから見ても可愛いぜ」 人が大勢いる場所に来ると、思わず尻込みしてしまう。昨夜のディナー会場は照明を少し暗めに落としてあったが、ここは外光が大きなガラス窓越しに射し込んできて、明るすぎる。 雅紀が周りを気にしながら眉尻を下げると、腰に手を回してぐいっと引き寄せられた。 「ほんとうに、綺麗だぜ。顔上げて胸張って堂々としてろよ」 ウィンクされて励まされ、雅紀はおずおずと顔をあげた。 案内された席は会場の一番奥で、昨夜のように仕切りはないが、周りからゆったりとスペースを取ってある。 隣のテーブルに目をやると、先に来ていた祥悟が、智也と並んでゆったりとペアシートに腰をおろして、小さく手を振っていた。 暁も気づいたはずだが、つーんとそっぽを向いて無視している。 雅紀ははにかみながら、こちらを見ている智也と祥悟に小さく頭をさげた。 隣と同じデザインのペアシートに並んで腰をおろし、バイキングスタイルの利用の仕方をひと通り説明して担当給仕が去っていくと、雅紀はようやく少し緊張を解いた。 「並んでる料理とデザート、見たか?やっぱすげえよな」 暁はわくわくしている様子だが、緊張して見ている余裕なんかなかった。 「俺、緊張しちゃって……」 「ほーら、深呼吸しろよ。俺がついてんだから大丈夫だって。さ、ゆっくり一緒に回ってみようぜ」 雅紀が頷いて立ち上がろうとすると、祥悟が真っ直ぐにこちらに向かってきた。暁は顔を顰め 「何だよ。まーた絡みに来たのか?もうおまえの相手はしねえぞ。邪魔すんな」 ムキになって噛み付こうとする暁を、祥悟は指先を振ってしっしとあしらい 「雅紀。ウィッグ。ちょっと直すよ?」 「え?……あ、はい」 祥悟は他の席から死角になるように立つと、両手を頭にあてて、ウィッグの位置を微妙に調整してくれた。 「顔、あげて?……うん、これでいいかな。雅紀、にこってしてみな。君、すっげー可愛いから」 雅紀が顔をあげておずおずと微笑むと、祥悟は満足そうに頷いて 「じゃね、暁くん。ごゆっくり。智也、先にパンケーキのとこ、見てみたいんだけど?」 祥悟は何事もなかったように、智也の腕を掴んで行ってしまった。 雅紀が苦笑しながら暁の顔を見ると、ちょっと納得いかぬげに仏頂面をして 「ちぇ。思いっきり女の格好してる癖に、なに男前なことやってんだっつーの」 「ふふ。ほんと、祥悟さん。美人で格好いいです」 暁は首を竦めて苦笑すると 「まあな。さ、俺らも行くぜ」 「はい」

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