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バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」103

「暁さん、どう?」 ひと通り気に入った料理をプレートに盛ってきて、味わいながらぺろっと平らげた後で、今度はデザートや店のメニューの参考になりそうな物を片っ端からプレートに盛り付けて、テーブルに戻った。 暁は真剣な表情で、ひとつひとつのデザートを観察し、ちょっとずつ味見している。 「うーん。この辺のプチケーキはさ、うちで出してる方が正直美味い気がするよな。さっき食った洋食のメニューは、何個か厨房で再現してみてもいいかもしれねえ。問題はデザートだな。これとこれ。見た目だけじゃねえな、味もいい。これって材料に何使ってんだろうなぁ……」 暁はすっかり仕事モードの顔つきになって、スマホで写真を撮りながら、味や食感、そして使われている材料を探り出しては細かくメモしている。 休日に、2人で人気のCafeやケーキショップなどに行くと、いつもやることだ。もちろん、そのまま真似するわけではない。自分たちの店で今後出していく新メニューの、アレンジの為の研究なのだ。 ……真剣な顔してる暁さんって……カッコいいな……。 雅紀は相槌を打ちながら、暁の横顔をそっと見つめた。 昨日の夕方ここに来て一泊しただけとは思えぬほど、いろいろなことがあったが、やっぱり一緒にここに来られてよかった。 暁と過ごす時間は、何気ない日常であっても全てが大切な宝物だが、こういう特別なイベントは一生忘れられない思い出になる。 昨夜は心と身体を重ね合い、恋人同士の濃密な夜を過ごせた。バレンタインデーの夜に相応しい、ロマンティックで甘いひとときだった。 「雅紀?どうした、おまえ食べねえの?」 うっかり、昨夜の余韻に浸りきってうっとりと暁を見つめてしまっていたらしい。 雅紀は慌ててフォークを手に取り、プレートに乗った料理をきょろきょろと見比べる。 「ううん。食べますよ。どれから食べるか迷ってるだけです」 暁は不思議そうに顔を覗き込んできて 「おまえ、顔真っ赤だぜ?昨夜、すっぽんぽんで寝たから、風邪ひいちまったんじゃねーよな?」 ご丁寧におでこに手をあてようとする暁に、雅紀はますます紅くなりながら首を振り 「ちっ、違いますって。大丈夫です。暁さんっ、人前です」 「ばーか。んなの気にすんなって。いちゃいちゃ過ごす為のイベントだぜ?ほれ、これ食ってみろよ。あーん」 暁は焼きたてのフレンチトーストを一口大に切ってフォークに刺し、口元に差し出してくる。雅紀はフォークの先と、楽しそうな暁の目をきょときょとと見比べた。

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