151 / 175
バレンタインデー特別番外編「幸せな誤算」105(最終話)
「お、雅紀。あれ、見てみろよ。……そっとだぜ」
囁く暁に目配せされて、雅紀は口をもぐもぐさせながら彼の視線の先を辿った。
隣のテーブルの2人が、自分たちと同じことをしている。
……うわ……。
「祥悟のやつ、照れてそっぽ向いてやがる」
にやにやする暁を、雅紀は睨みつけた。
「そういうこと、言っちゃダメです」
ちょっと嫌そうな態度を取りながらも、祥悟はすごく幸せそうだ。見つめる智也の眼差しも、蕩けるように優しい。
2人を見ているだけで、甘い幸せをお裾分けしてもらったように心がぽかぽかする。
「2人とも、と~っても幸せそうですね」
雅紀がむふふ…っと笑うと、暁が身体を寄せてきて耳元で囁く。
「俺らもさ、あいつらに負けねえぐらい、幸せだろ?」
雅紀は暁の目を見て、こくんっと頷いた。
朝食を済ませ、部屋に戻って荷物をまとめると、チェックアウトの為に一階のフロントに向かう。
フロントには、既に智也と祥悟が並んで立っていた。
暁と雅紀が近づくと、祥悟が目敏く気づいて振り返り
「へえ。もう帰るんだ?もっとゆっくりしてけば?」
「おまえらこそな。俺らは帰って、明日の店の仕込みとかあるんだよ」
「ふーん。ね、暁くん?」
「う……。なんだよ」
「楽しかった。君らと一緒に過ごせてさ」
また絡まれるのかと身構えていた暁が、拍子抜けした顔で黙り込む。祥悟はこちらにも目を向けて柔らかく微笑み
「いろいろお邪魔してごめんね、雅紀。でもさ、一緒に参加出来てよかったし」
「俺もです、祥悟さん。また機会があったら、今度は一緒に旅行とか、してみませんか?」
雅紀の提案に、祥悟は一瞬驚いたように目を見張ったが
「ふふ。いいね、それ。どっか良さげな温泉とかさ、景色のいい観光地とか回って、のんびり遊んでみたいよね」
祥悟はそう言って、ふわっと嬉しそうに微笑む。
「はい。ぜひご一緒に」
チェックアウトを済ませた智也が歩み寄ってくると、祥悟は暁の顔を覗き込み
「じゃね、暁くん、お先に。仕事、頑張ってね」
「お……おう」
手を振りながら智也と並んで立ち去りかけたが、立ち止まってくるっと振り返ると
「あ、そうだ。雅紀。例の約束、忘れないでね」
にやっと笑いながら余計なひと言を置き土産にして、颯爽と行ってしまった。
「……雅紀。例の約束って、何だよ?」
地を這うような暁の声音に、雅紀はきょとんっと首を傾げる。
「んー……分かんないです。俺、別に何も約束なんか、してないですけど……」
「ち。何だよあいつ。意味深なこと言いやがって」
「暁さん。それよりチェックアウト済ませて、早く帰りましょう?俺たちのお店に」
暁は首を竦めると
「おお。そうだな。とっとと帰っていちゃこらしようぜ。俺らの愛の巣でさ」
「んもぉ~。暁さんのお馬鹿っ。そういうこと、大きな声で言わないっ」
ー完ー
※これにてバレンタインSS、完結です。
随分長いこと掛かってしまいましたが、最後までお付き合いくださって、ありがとうございました(*_ _)
祥悟が最後に念を押した雅紀との約束。
おそらく次の番外編で 詳しく綴ることになると思いますよ。
彼ら4人の露天風呂温泉旅行ネタなんかも、そのうち書いてみたいと思ってます。
月うさぎより
ともだちにシェアしよう!