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バレンタインSS『にゃんこな君』仕返しver.(智也×祥悟) 1
「は?……暁くんから……?」
宅急便で届いた荷物を渡すと、祥悟は伝票を見て眉を顰めた。
「うん。早瀬暁って……書いてあるね」
「……意味わかんねえし。品名、チョコレートって書いてあんだけど?」
「うん。今日はバレンタインデーだからね」
「や。おかしいじゃん。なんであいつが、俺宛にバレンタインデーのチョコなんか……あ……」
言葉を途切らせ、こちらを見た祥悟に、智也は苦笑しながら頷いた。
「そう。多分、昨年のお返し……だね」
祥悟は目を丸くして、もう1度手元の荷物をしげしげと眺めた。
「はぁ? あいつ……馬っ鹿じゃねーの? こんな見え見えの仕返ししてくるとかさ」
祥悟は笑いながら鼻を鳴らすと、綺麗にラッピングされたその箱をテーブルに放り出した。
「祥。湯冷めするよ。せっかく温まったんだから、そろそろ布団に入った方がいいよ」
風呂上がりに、いつものように薄手のシャツ一枚を引っ掛けただけの姿で、祥悟は窓際の1人掛けソファーに脚を組んで座っている。智也が声をかけると、持っていた箱をテーブルに放り出し、ひょいっと振り返ってこっちを見た。
「んー。わかってるっつの。でもまだ眠くねーし」
智也はゆっくりと祥悟に歩み寄ると、屈み込んで後からそっと抱き締めながら、テーブルの上を覗き込んだ。
「さっきから何を見てるんだい?……ああ……それって……」
「んー。夕方さ、暁くんから届いたやつな」
祥悟はいったんテーブルに手を伸ばし、放り出した箱をつまみ上げてひらひらと揺らす。
そう。それは、夕方、早瀬暁から届いた……贈り物だ。宛先は自分と祥悟の連名ではなく、祥悟1人になっていた。
あの早瀬暁が、祥悟宛てにバレンタインデーのプレゼント……というのが、どうにも気に入らない。
昨年、祥悟が仕掛けた媚薬入りチョコレートの悪戯に対する仕返しだと……分かってはいるけれど。
「え。ちょっと。開けてみるのかい?」
見ると、祥悟はガサガサと包みを開け始めていた。智也が慌てて、それを取り上げようとするとひょいとかわして
「だってさ。気になるじゃん?」
こちらの手が届かない場所で、ひらひらと箱を揺らしながら、祥悟はにやりと笑みを浮かべた。
「あのね、祥。それはどう考えても、雅紀くんに贈った媚薬入チョコレートの仕返しだと思うけどね」
「まあな。しっかしあいつ、芸がねえのな。頭悪いんじゃねーの? おんなじことされてさ、俺が食うわけねえじゃん」
「そうだね。ちょっとあからさまだよね。だったらそれ、普通にチョコレートかもしれないな」
祥悟は目を剥き、また箱をじっと見つめて首を傾げた。
「だとしたら余計に意味わかんねえし」
……そうだね。お互いにパートナーがいる身で、バレンタインに思わせぶりなプレゼントを送ってくるなんて、ちょっと無神経だよね。
内心そう突っ込みを入れたが、もちろん口には出さない。ただの普通のチョコレートなのか、それともやっぱり媚薬入りの……?
だとしたら……
「ねえ、祥。媚薬入りかどうか……試してみる?」
智也は後から抱き締める腕に少し力を込めて、祥悟の耳元に囁いてみた。祥悟は擽ったそうに首を竦めて、ちろ……っとこちらを見て
「……は? おまえ、なんでエロい目になってんのさ」
「い、いや。なってないよ」
慌てて真顔を作る智也に、祥悟は片眉をあげた。
「ふーん……」
祥悟の不審の眼差しを無視して、彼の手元を覗き込む。化粧箱から祥悟がつまみ上げたトリュフチョコレートは、いかにも高級そうに見える。
「うーん。見た感じは普通にチョコレートだよね」
「んー。まあ匂いも普通だし」
くんくんと匂いを嗅いでいた祥悟が、ひょいっとそれを口に近づけた。
「あっ。ちょっと、本当に食べるの?」
祥悟は恐る恐る齧ってみて、また首を傾げみせ、今度は残りを大胆に口に放り込んだ。
「……味も普通。つーかこれ、かなり美味いし」
口をもぐもぐさせながら祥悟はご機嫌な顔になり、もうひとつ摘むと口に運ぶ。
「ちょっと、こら、ひとつでやめた方が……」
止めようとする智也の手を、うるさげに払い除け
「大丈夫だっつーの。毒なんか入ってるわけねえし……ん?……あ……なんか、やばいかも……」
「え?やっぱり媚薬入りだったのかい?あ……えっ?祥。ちょっと待って。苦しいのっ?」
祥悟の身体が急に力をなくして、ずるずると座面から滑り落ちていく。智也は焦って前にまわると、沈み込みそうになる身体を抱き起こした。
「んーだめだ……眠く……なってきたし……」
「まさか睡眠薬入りなのか? え。祥、大丈夫?しっかりして」
「みゅ~……」
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