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SS チョコレートを君に1

まだ付き合う前の智也と祥悟。 せつなくてほろ苦甘いバレンタインデー。 ※このお話は、智也と祥悟というキャラクターが生まれたばかりの頃の、初期に書いたSSです。智也の口調など、キャラ設定が本編とは若干違う感じですが、こういうのもあったよ〜ってことで(*´―`*) ※※※※※※※※ 「は‍?わざわざ呼び出しといて、それが用事かよ‍?なんで俺が付き合わなゃいけないのさ」 智也からの呼び出しで、しぶしぶといった顔で祥悟が待ち合わせ場所にやって来た。今日の用事を手短かに説明すると、祥悟は案の定口を尖らせ、不機嫌そうに吐き捨てた。予想通りの反応に、智也は首を竦め苦笑いして 「怒るなよ。君しか思いつかなかったんだ。礼はする」 祥悟はぶすくれた顔のまま 「別にいいけど。どうせオフで暇だったし?」 2人は百貨店の特設会場に向かった。 今日はバレンタインデー当日。国内外の有名なチョコレート専門店の期間限定イベントは、平日とは思えない混雑ぶりだ。 フロアに溢れているのは、ほとんどが女性客だった。男2人で来るのはやっぱり場違い過ぎる。祥悟はエレベーターを降りた途端に、うんざりした顔になり 「俺やっぱ帰るわ。じゃあな」 くるりと背を向けて、再びエレベーターに乗り込もうとする祥悟の腕を、智也は慌てて引っ掴み 「ここまで来たんだ。もう少し付き合ってくれ」 祥悟は首を竦め、智也に引き摺られるようにして歩き出した。 智也は元モデルで、祥悟は現役モデルだ。 2人とも帽子とサングラスで軽く変装はしているが、長身で垢抜けたイケメン2人の姿は、女子ばかりのイベント会場で悪目立ちしている。 不機嫌そのものの様子で歩く祥悟を、智也は目当てのブースに無理矢理引っ張って行き、店員の勧める試食のチョコを受け取って差し出した。 「食ってみてくれ。俺は甘い物は無理だから」 祥悟は顔を顰めながら、爪楊枝の先についたチョコを、智也の手から直接ぱくっと口に入れた。隣でちらちら2人の様子をうかがっていた若い女子たちが、色めきたってざわざわしてる。 ……こういうとこ、割と無頓着なんだよな、祥悟って。 注目を浴びるのが仕事だからなのか、女の子たちの熱い視線には慣れっこで、男同士のお口あ~んにも全然動じる様子はない。 あらかじめ情報誌で目星をつけていたブースを渡り歩き、手渡された試食チョコを祥悟の口に入れていく。 まるで餌付けしている気分だ。 案外文句も言わずに素直についてきて、チョコレートを味見している祥悟の顔を、智也は横目でちらっと見て微笑んだ。 今日のチョコレート選びは、姉に頼まれたのだと、祥悟には告げていた。甘い物が苦手な自分の代わりに、味見して欲しいと。 祥悟は酒が弱い。そして実は結構な甘党なのだ。特にチョコレートが大好物で、一緒に仕事をしていた時に、差し入れのチョコレートを幸せそうに頬張る姿を何度も目撃していた。 「で‍?どれにすんの」 いったんブースから離れて、休憩スペースの壁にもたれた祥悟が聞いてくる。智也は首を傾げ 「たくさんありすぎて分からないな。君はどれが一番美味かった?」 「んー……。味だけだったらあそこのシャンパントリュフ。でも見た目重視なら、あっちのドライフルーツ散りばめたハート型のやつじゃねーの。あ、でもさっきのスプーンですくうのも結構いけるかも」 大好きなチョコレートをいろいろ味見出来て満足したのか、来た時の不機嫌な顔がすっかりゆるんでいる。 …可愛いな……。気まぐれ猫の餌付け、成功かな? 「お。あれまだ食ってないな」 祥悟はすっかりその気になったのか、会場のパンフレットをひらひらさせながら、自分で気になるブースに向かって、ショーケースを覗き込み始めた。 そうして祥悟が試食に気を取られている隙に、智也は彼が選んだチョコレートをとりあえず全部買ってみた。 会計を済ませ、紙袋を3つぶら下げて、人混みをかき分けながら祥悟の姿を探す。 祥悟は売り子の女の子を揶揄いながら、まだ試食中だった。近づくと、ちらっとこちらの荷物を見て 「は‍?全部買ったのかよ。おまえの姉さん、どんだけチョコばらまくのさ」 智也はそれには答えず、首を竦めてみせた。 「他にもあるか?」 結局、祥悟が気に入ったと言ったチョコレートは全て買い、イベント会場を後にした。 夕食は上の階のレストランに行き、軽く済ませる。 「じゃあな」 店を出ると、そのままあっさり駅に向かおうとする祥悟の腕を、智也は慌てて掴んで 「いや。君にお礼がまだだ。俺の部屋まで付き合ってくれ。帰りは車で送ってやるから」 「お礼って‍?さっき飯奢ってくれたじゃん」 怪訝な顔をする祥悟をなんとか宥めて、智也は自分のマンションに祥悟を連れて帰った。 あまりスマートな誘い方じゃなかったが、このまま祥悟に帰られたら、折角の計画がおじゃんだ。 「で、お礼ってなに‍?エッチすんの?」 祥悟は心得た様子で、いつものように直接寝室に向かう。

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