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突発SS『Twitterお題:傷口を舐める』祥悟と智也編 1

※Twitterでアンケートを取って出たお題での突発SSです。6ページぐらい?の短いお話です*_ _)♡ ※※※※※※※※※※※※※※※ 退院が決まって、1ヶ月ぶりにマンションに戻って来られた。ドアを開けた途端に、懐かしい匂いがして、ほっと心が和む。 病院からずっと、祥悟は黙りこくったまま、身体を支えてくれていた。傷口はもう塞がったが、思ったより長引いてしまった入院生活のせいで、筋力が落ちている。ふらつく自分が情けなかったが、傷に響かないように、智也が慎重に玄関の段差を上がる時も、祥悟は無言で肩を貸してくれた。 「ありがとう。重たかっただろう?」 智也が顔を覗き込むと、祥悟はぷいっと顔を背けて 「そこ、カーペットの段差。足引っ掛けんなよ」 言いながら脇を抱えるように支えて、リビングまで連れて行ってくれた。 「ふぅ……」 怪我の場所が場所だけに、入院中は思ったように動けなかったから、病院からここまでの移動だけで、結構体力を消耗していた。 ソファーにどさっと腰をおろし、ほっとして思わずため息を零すと、祥悟が隣にちょこんと座って、顔を覗き込んでくる。 「傷……まだ痛むのか?」 「いや。ちょっと違和感があるくらいだよ。ありがとう」 何でもないよと笑ってみせても、祥悟は不安そうに、額に手をあててきて 「無理すんなよ。まだ熱、出るかもしんねえって医者が言ってたし」 ぼそっと呟く祥悟の声は、元気がない。 入院直後、祥悟は可哀想なくらい取り乱していた。早瀬くんが、意識のない自分の代わりに親身になってくれていたと、雅紀くんから聞いた。 付き添う間に、表面上は落ち着いたようにみえたが、まだだいぶ引きずっているのだろう。 自分の怪我が、彼の昔のトラウマを呼び起こしてしまった。 意識を取り戻した後、血の気を失い無表情な祥悟の手を、何度も握り締めた。 大丈夫だよ、と繰り返し言い続けた。 退院が決まって初めて、祥悟は少しだけぎこちなく微笑んでくれた。でもまだ……あの輝くような笑顔や皮肉な笑みは見せてくれない。 やむを得ない怪我だった。 自分が庇わなければ、祥悟が刺されていたのだ。 あの勢い、あの角度で、もし彼が刺されていたら、取り返しのつかないことになっていたかもしれない。そう考えるだけで……ゾッとする。 咄嗟に祥悟の前に飛び出したあの時からずっと、祥悟が刺されるくらいなら、自分が怪我をしてよかったと思っているのだ。 でも……こんなにも哀しませてしまった。 苦しませてしまった。 そのことが……とても悔しい。 「えっと。なんか、飲むか?」 落ち着かない様子で、腰を浮かした祥悟の手首を、智也は思わず掴んだ。

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