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SS『傷口を舐める』智也と祥悟編 4

声をあげて祥悟が泣く。 こんな泣き方をする彼は、初めて見たかもしれない。これまで堪えていたものが一気に溢れ出たように、祥悟は震えながら縋り付き、子どものように泣き続けた。 智也は、彼が落ち着くまで、ずっと背中をさすっていた。 「祥……落ち着いた?」 祥悟の身体の震えが止まって、しゃくりあげる声も止んでから、ようやく声をかけてみた。 祥悟が、むくっと顔をあげる。 目が合って、智也はほっとした。 その目は真っ赤で、まだ涙で濡れていたが、病室でパニックを起こしていた時の、痛ましくて見ていられないような、焦点の定まらない目ではなかった。 「祥」 手を伸ばして祥悟の頬に触れようとすると、祥悟が目を伏せ、傷口に再び視線を落とした。 指先で傷口にそーっと触れてくる。 思わずぴくっとすると、祥悟もつられたように指を引っ込めて、ゆっくりと顔をあげた。 「痛い……か、ここ。触ると……痛む?」 祥悟の瞳が、不安そうに揺らめいている。 「大丈夫。もうほとんど痛くないよ」 祥悟は眉を寄せ、ちょっと駄々っ子のように首を横に大きく振ると、不意に智也の腹に顔を埋めた。 「え……っ?祥……ぁ……っ」 傷口に熱が触れる。祥悟の唇が、そっとそっと傷をなぞる。擽ったいくらいにそっと。 智也が思わず身をよじると、傷口に唇を押し付けたままで、上目遣いに見つめてくる祥悟と目があった。 「これ、やっぱ痛ぇの?」 「違うよ。でもちょっと……擽ったいよ、祥」 苦笑する智也に、祥悟はちょっと考えるように首を傾げると、再びそこに顔を埋めて、今度は舌でぺろぺろと舐め始めた。 「……っあ、こら」 意表を突かれた。唇でなぞるだけじゃなく、まさか舌でそこを舐めてくるなんて。 祥悟の舌は、直接傷には触れてこない。 慎重に傷は避けながらその周辺を、まるで仔猫のようにぺろぺろと舐めている。 「こーら。擽ったいって」 脇腹から脚の付け根にかけてのそこは、その下の際どい場所に繋がる皮膚の薄い場所だ。 祥悟はここがかなり感じるポイントだが、自分はそうと意識したことはない。 でも、怪我のせいで1ヶ月以上、禁欲生活を余儀なくされていたのだ。愛おしくて堪らない仔猫にそんな悪戯をされたら……なんだかおかしな気分になってしまう。 ……いや、ちょっと、待って。

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