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SS「おいで……」(一話完結)

「どうしたの?」 視線を感じたのか、智也がパソコンから顔をあげてこちらを見た。 「……別に」 祥悟は素っ気なく呟いて、ふいっと顔を背けた。またパソコンに集中し始めた智也の横顔を、気づかれないようにそっと盗み見る。 今日は2人揃っての久しぶりの休日だったが、智也の締切が近くて、朝からずっとマンションに缶詰めだ。 暇潰しにめくっていた雑誌にも飽きて、祥悟はぼんやりと物思いに耽っていた。 取り留めもなく、仕事のこととか、昼飯を何にしようかとか、そして……智也のこととか。 (……そういや俺、こいつのどこが好きなんだろ。顔?…ん~まあ好きだよな、すげえイケメンだし。性格も…好きかも。穏やかだし優しいしさ。…あとやっぱ…身体…かな。こいつ結構、俺の理想体型なんだよな…。程よく筋肉ついててさ。ん~あとは…) 「祥。退屈かい?紅茶でもいれる?」 (……あ……。声だ。この柔らかくて落ち着いた声。俺、こいつの声、好きかも……) 「祥?」 訝しそうな智也の声に、祥悟ははっと我に返った。 「さっきからどうしたの? 俺の顔に何かついてるかい?」 不思議そうに首を傾げる智也に、祥悟はポーカーフェイスを装う。 「んー。別に?」 「じゃあ具合、悪いのかい?」 「や。そうじゃなくってさ。そっち……行ってもいい?」 「え……?」 「隣。……邪魔じゃねえ?」 一瞬目を見張った智也が、ふわっと嬉しそうに笑った。 「ああ。もちろん邪魔じゃないよ。……おいで」 祥悟は、智也の差し出す手をじっと見つめた。 (……うわ。今のちょっとキた。「おいで……」ってやつ) 思わずときめいてしまった顔を見られないように、慌てて目を逸らすと 「智也。もう1回」 「え?」 「おいで……っての。もう1回言ってみてよ」 「え。おいでってやつ?」 察しが悪くてきょとんとしている智也に、祥悟はいらっとして 「だーかーらー。さっきのさ、おいで……っての、もう1回って言ってんじゃん」 説明しながら、祥吾はだんだん自分の言っていることが恥ずかしくなってきた。 「あ、いや、やっぱ、今のなしな。何でもねーし」 慌てて打ち消し、照れ隠しに雑誌に手を伸ばす。 「祥」 智也は立ち上がり、祥悟の横に来て、す……っと額に手をあてた。 「熱は……ないかな。でも祥、なんだか君、さっきから顔が赤いよ?」 心配そうに覗き込んでくる智也を、祥悟は上目遣いに睨みつけた。 「……おまえ、にぶすぎ」 途端に智也はふふ……っと悪戯そうな目をして微笑んだ。 「祥……おいで」 (……っ) 揶揄われていたと気づいて、祥悟はちょっとむっとした。両手を静かに差し出して、穏やかな甘い声で囁く智也を、膨れっ面で睨みつける。 「おいで……祥。退屈させてごめんね」 智也の優しい笑顔と包み込むような温かい声に、祥悟の心臓がとくんと跳ねた。 (……あ……やっぱ、この声…俺、超好きだわ) 内心とは裏腹に、祥悟は拗ねたように智也を睨みつけたまま、智也の腕の中にぽすんっと飛び込んだ。 ーEndー

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