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「吐息のようにKissしてよ」4
祥悟はすんっと鼻を鳴らすと首を竦め
「ま。おまえが言うようにさ。その結婚相手ってのも、俺が感じてたようないい人じゃなかったのかもな。離婚したんだって、惟杏さんが自分で選んだ道なんだし。俺がイラついても仕方ねーもんな」
祥悟はようやく、吹っ切れたような顔になり、
「ごめん、買い物中断してさ。そろそろ、行こうぜ」
グラスの残りを飲み干すと、伝票を手に立ち上がった。
今日は2人の誕生日だ。
生まれた年は違うが、偶然にも自分と祥悟は同じ日が誕生日だった。
初めてその事を知った時は、ちょっと運命的なものを感じて嬉しかった。
一緒に暮らし始めてからは、お互いに誕生日には、仕事の都合がつけば出来るだけ一緒に買い物に出掛けて、お互い欲しいものをプレゼントし合っている。
今日も、候補のセレクトショップに入る直前で、惟杏さんと会ったのだ。
気持ちを切り替えたのか、すっかり元の調子に戻って、足取りも軽やかにセレクトショップに向かう祥悟の後ろで、智也は独りもやもやしていた。
さっきから、何も感じないフリはしていたが、知っていた以上に深い絆のあった祥悟と惟杏さんの関係が、ちょっとショックだったのだ。
もし惟杏さんが結婚をやめると言い出さなかったら……祥悟は彼女と本気で結婚していたはずだ。ひょっとすると、彼自身、結婚して子どもを持つことに、淡い憧れのようなものがあったのかもしれない。
今、祥悟は自分と生きる道を選び、お互いが一緒に暮らすことを楽しんでいる。
でも、彼には普通に家庭を持ち、人の親になる道も選べたのだ。
そういう屈託は、もう完全に吹っ切ったつもりでいたが、自分がゲイで彼が元ノンケである以上、負い目をまったく感じないわけではない。
こんなことを考えていると気づいたら、またその話かよ?と、祥悟に怒られてしまうだろうけれど。
「なあ、前に雑誌見ていいって言ってたのって、これじゃねーの?」
店に入ってからもちょっとぼんやりしていたら、祥悟が手招きをする。
智也は慌てて表情を和らげ、祥悟の隣に行くと棚の上の財布を見つめた。
「ああ……そうだね。これだよ」
「こっちとさ、これ、おまえはどっちがいいのさ」
もうひとつ、今日ここに来た目的の財布を手に、祥悟が顔を覗き込んでくる。
智也は2つの財布を見比べてしばらく悩んだ末に、顔をあげて祥悟を見つめて
「選べないよ。君が選んで。どっちがいいのか」
思わずそう呟いてから、ハッとして目を逸らした。
少しの間の後で、祥悟が答えた。
「じゃ、こっち。俺の財布と、デザインおんなじで色違いだし」
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