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「吐息のようにKissしてよ」5※

互いのプレゼントを買った後で、祥悟が予約してくれたホテルのレストランに向かった。 高層階用のエレベーターに乗り、祥悟が最上階のボタンを押す。 「あれ?レストランはその階じゃな……」 智也が言いかけると、祥悟の手が伸びてきて手首を掴まれた。 ……え……? ぐいっと引っ張られ、そのまま背中を壁に押し付けるようにして、祥悟が身を寄せてくる。 「ちょ、祥……?」 「しっ、黙ってろって」 祥悟はこちらの襟を両手で掴み締め、グイッと背伸びをした。急に迫ってくる祥悟のキツい眼差しを、智也は唖然として黙って見つめ返す。 次の瞬間、壁に押さえつけられ、祥悟の形のいい唇が下から掬うようにして唇に押し付けられた。 ……っ。 高速で上がっていくエレベーターの中で、祥悟にキスされている。 柔らかい髪の毛の隙間から、窓の外の光景がハイスピードで下へと流れていくのが見える。 陽が傾きかけて、向かいのビルのガラス張りの壁面を金色色に染めている。それを呆然と見つめながら、なんだか妙に現実離れした、不思議な感覚に陥っていた。 噛み付くように口づけてきた祥悟の唇が、ふわっと離れた。智也は目だけ動かして、自分を見上げる祥悟の、ちょっと緑がかった瞳を見つめる。 「しょ、」 再び、壁に頭を打ち付けそうな勢いで、唇を奪われた。歯がガチっと当たって痛い。祥悟は怒ったような目を閉じもせずに、微かに鼻を鳴らして舌で唇をこじ開けてくる。 ……ちょ、待って、ここ、エレベーターの中、 智也はようやく我に返って、両手で祥悟の肩を掴んだ。ねじ込んでくる舌を押し出し、首を振って口づけを振りほどく。 「祥、待って、防犯カメラが」 「るっさいっつーの」 鋭く舌打ちして、再び祥悟が唇を押し付けてくる。智也は抵抗を諦めて力を抜き、忍び込む熱い舌を受け入れた。 「……ん……っふ……ん、……ん」 ちゅくちゅくとエロティックな水音に混じって、祥悟の鼻から盛れる微かな甘やかな吐息。 急激に身体の熱があがって、クラクラする。 箱の中には、自分たち以外には誰もいない。でも天井に取り付けられた防犯カメラのレンズ越しに、見知らぬ誰かの視線を感じてドキドキした。 不意に、滑らかだった上昇感が、ウィンっという音とともにたわんだ。身体がガクンとなって、エレベーターがゆっくりと動きを止めていく。 智也は、ハッとして壁の階数表示を目で追った。 まだ最上階ではない。 誰かが、途中の階でこの箱を呼んだのだ。 ドアが開けば、その誰かに見られてしまう。2人だけの秘め事を。 智也は焦りながら祥悟の両肩を押し戻し、吸い付く唇を無理やり引き剥がした。

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