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「吐息のようにKissしてよ」8
クラリ…として思わず祥悟に縋り付く。
「あ……ごめ、」
ふわり…と白い物が視界を掠めた。
祥悟が首に巻いていたストールをするりと外して、ぶわっと大きく広げたのだ。
大判のストールがまるで羽根のように広がり、自分の頭にふわりと落ちてくる。
……え……?
ストールで後頭部からすっぽり包まれてしまった。智也が驚いて目を見張ると、祥悟はくすっと笑って
「俺らだけの世界」
「祥…」
祥悟は何故か言いにくそうに口ごもってから、ため息をついて
「……ごめん。さっきの、八つ当たりだった。俺が惟杏さん、ムキになって追いかけたりしたから……おまえのこと、不安にさせたんだよな」
祥悟は小さな声で囁いた。
「や、違うよ。俺の方こそ、ごめ、」
「謝んなよ。悪いのは俺じゃん」
祥悟は軽く舌打ちすると、眉を顰め
「おまえの顔見てて気づいた。昔の話なんか持ち出して、無神経だったよね、俺」
智也は顔を歪め、慌てて首を横に振った。
目を伏せた祥悟の長いまつ毛が震えている。
「昔さ、惟杏さんと、そういうやり取りがあったのは事実。でもさ、今は俺、おまえしか見てねえから」
「っ、祥……」
祥悟はちょっとバツが悪そうに、上目遣いでこちらを見上げる。その瞳が少し潤んでいるように見えて、ハッとした。
「俺、鈍感でさ、おまえの気持ち、全然わかってやれなかったじゃん?それどころか自分の気持ちも、わかってなかったし」
智也は無言で首を横に振った。祥悟は苦笑して
「そのせいで随分、回り道しちゃったよね。おまえ、優しいから、ずーっと苦しかっただろ。俺、最近さ、そん時のおまえの気持ちがよく分かるようになってきた。……今更だけどね」
「祥、いいんだよ。もうそれは」
祥悟は小さく首を振ると
「毎日毎日、おまえと一緒に暮らしてる時間が増えてくだろ。その度に俺、怖いくらいおまえのこと、好きになってんの」
「え……?」
「おまえが笑えば、俺もなんか嬉しい。おまえが辛い時は、俺も胸ん中がもやもやする。そういう風に人とちゃんと向き合うの、俺まだ、慣れてないからさ。でもこれ以上また、遠回りしたくないんだよね」
智也は震える手で、祥悟の頬をそーっと包んだ。
「だからさ、たまに失敗しても、許してくんねえ?俺、ちゃんとおまえのこと、見てるから。おまえがなるべく哀しくなんないように、努力するからさ」
智也はくしゃっと顔を歪めた。
何を言ってるんだろう。この愛おしい人は。そんなことを、言われたら、どんな顔をしていいか分からない。
またみっともなく、泣いてしまいそうだ。
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