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「吐息のようにKissしてよ」9

祥悟は変わった。以前ならば、こんな言葉はなかなかくれなかった。 いや、祥悟が変わったと言うより、自分たちの関係が、以前とは変わってきているのだろう。 一緒に過ごす時間が増える度に、怖いくらい好きになっているのは自分の方だ。 でも、祥悟がその言葉をくれるなんて思わなかった。 ……どうしよう。本気で泣きそうだ。 智也は目の奥が熱くなってきて、慌てて瞬きをした。嬉しくて心が震えて、声が言葉にならない。 祥悟の顔が近づいてきて、鼻先にちゅっとされた。さっきの乱暴なキスとは違って、そっと触れるだけの優しい口づけだ。 「泣くなよ?」 祥悟が囁いて、吐息だけで笑う。 見透かされてる。ちょっと悔しい。 でも、こちらの感情の揺れをすかさず気づいてくれるのが嬉しくて複雑だ。 「俺は、そんなに不安そうだった?」 「ん。おまえ、普段はポーカーフェイスだけど、たまにすごく表情に出る。思ったことが」 「君を、縛りつけてないかと心配になったんだ」 智也が正直に答えると、祥悟はまた吐息だけで笑って 「ばーか。縛りつけてよ?もっと。おまえは束縛してくんないから、時々こっちが不安になるし」 智也は驚いて目を見開いた。 「ほら、そういう顔する。おまえってすげえ細かい気遣いしてくれるくせに、肝心なこと、分かってないよね」 「そう……分かってない?俺は」 「ん。俺にはさ、もう自由に飛び回る羽根なんか要らねえの。そんなものよりもっと大切なもん、見つけちゃったからさ」 智也は零れそうになる涙を、また瞬きで散らす。 「おまえが俺のこと、見守ってくれてたから、俺は安心して無茶出来た。でもさ、どんな広い世界より、もっと大切なものがたくさん見つかる場所、見つけたんだ」 「……どこ?」 「おまえの、そばだよ。寛げるだけじゃねえのな。俺はおまえの傍にいて、毎日たくさんのこと、見つけてる。自分でも知らなかった自分のこととか。そしておまえと同じ目線で見る世界。すげぇ広くて深いのな。それにすげぇ満たされる」 智也は泣き笑いの顔で、思わず吹き出した。 「もう……。泣くなって言ったくせに、俺を泣かせようとしてる?」 祥悟は目を細め、くすくす笑って 「泣くなってば。それより、キスして?おまえの優しい吐息みたいなキス、俺、大好きだから」 とうとう堪えきれずに、涙が一筋、目尻から零れた。頬を伝い落ちる熱い雫を、祥悟がすかさず唇で吸い取る。 「大好きだよ、祥」 「俺も」 智也はくしゃっと笑うと、祥悟の柔らかい唇をそっと啄むように、唇を重ねた。 ーENDー これにて完結ですが、もう1ページ、おまけを更新します。

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