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✡。:*New Year Special Short Story*:。✡
―――Side 煌來―――
「いっちー、初詣に行きましょう」
リビングのテレビが某神社の除夜の鐘を奏で始めた頃、年末最大の歌番組を見終わった俺は寝る気満々だった。
クリスマスであろうと誕生日であろうと我が家で手作りのイベント料理が出されることはないので、大晦日である今日も例年に違わず出前の年越し蕎麦を夕飯に食べ終え後は寝るだけだ。
「あっきー、俺寝るところだったんだけど~」
「夏祭りをやっていた通りに縁日が出ているらしいですよ。 その先の神社では甘酒も配ってるそうです。 何分で着きますか?」
行くのが確定したかのように話を進められ、頭の中であらゆる可能性が駆け巡る。
強引に断った場合、丁寧に断った場合、文句を言いつつ出掛けた場合、すんなりと出掛けた場合…。
思い付く限りの可能性を瞬時に検討し、最善の一手を選ぶ。
「――――10分」
「あなたのその思考回路には毎度の事ながら感服致しますよ。 では、10分後に駅でお待ちしています」
満足気に電話を切られたが、その台詞はそっくりそのままお返ししたい。
入学してから9ヶ月、お互い腹の中で何を考えてるのか分かるようで分からない絶妙な関係を続けている。
利害が一致した時は頼もしいが、食い違った時には無言の攻防が異次元で繰り広げられているような気がするのだ。
今回も俺が考えた選択肢と同様のことをあっきーも考え、どう反応すれば思い通りに事を運べるか策を練っていたであろう。
寝る気満々ではあったけど、正直すごく眠いという訳でもない。
たまには腹の内の読めない友人とお近付きになっておくのも悪くないかな、とコートを羽織い駅へと急いだ。
10、9、8…
予告通り10分弱で駅には着いた。
そこかしこからカウントダウンをする声が聞こえてくる。
7、6、5、4…
カウントダウンが進むに連れ段々声が揃い、大きくなっていく。
あれ、このままだと年越しぼっち?
ま、寝る予定だったしいいけどね~。
さんっ! にぃっ! いちっ!!
「明けましておめでとう御座います、いっちー」
「うわっ!! びっくりした~」
「おや。 プリンス様から一本取れるとは、今年は良い年になりそうですね」
“いち”まで数え終わったタイミングで雑踏から突如あっきーが現れた。
あけおめー、ことよろーと賑わう人々の中で一人、とても新年を祝っているようには見えない雰囲気。
このタイミングで現れたってことは、少し前には気付いていたんだろうな~。
「プリンス如きでは我が校のキング、あっきーには勝てませんよ~。 さっさと声掛けてくれれば良かったのに~」
「ご謙遜を。 デカイ野郎二人で仲良くカウントダウンなんてしたくありませんから。 さ、冗談はここまでにして行きますよ」
「ま、俺もどうせなら可愛い子とやりたいね~。 目的地は?」
「いっちー、ヤりたいだなん卑猥ですね。 この先の神社です」
祭りの度に歩行者天国になるこの通りには、道の両側にびっしりと屋台が立ち並び、その先の神社まで続いている。
焼きそば、イカ焼き、りんご飴。
立ち並ぶ屋台には見向きもせず目的地の神社へ向かっているが、縁日が出てるから、と誘われた気がしたんだけどな。
「あっきーの思考回路には敵わないよ~。 甘酒?」
「似たような嗜好をお持ちだと思ってたんですがね。 願掛けです」
思考が嗜好に然り気無く変換されている。
「あっきーと一緒にはされたくないな~。 願掛け?」
毎度の事ながら、あっきーと話すと複数の話が同時に進む。
3~4個の話が同時進行することもざらにあるし、独特のテンポのこの会話は結構気に入っている。
「ここの神社、お参りすると願いが叶うらしいんですよ」
丁度神社に到着し、鳥居の前の石段で振り返ったあっきーが言った。
テンポよく進んでいた会話の雰囲気が突然ガラリと変わる。
願い事なら実力で叶える、とか言いそうなタイプなのに。
「へぇ~、じゃあ俺もお願いしちゃおうかな~」
「信じてませんね?」
ジトリと不満げな視線を送られる。
「あっきーこそ、こういう話信じないタイプでしょ~? 誰に唆されたのさ~」
「―――獲物…いえ、兎ですかね」
御愁傷様デス。
獲物を兎と言い換えても、あっきーが捕食する気満々なのは間違いない。
妖艶な笑みで想うのは一体どんな“兎”なのか、大方その兎ちゃんと変な賭けでもしているんだろうな。
「ふ~ん? 俺が呼ばれたのは噂の真偽を確かめるため~?」
「実証するには叶った願いが一つでは信憑性に欠けますからね」
とりあえず叶うかどうか、試しに何かお願いしてみてくれ、と頼まれる。
お試しでお願いされるだなんて、神様も可哀想に。
参拝客の列に並びながら、年末年始の忙しい時期に災難だな~、と神様相手に同情してしまう。
並んだ列はあっという間に進み、気付けばずっと目の前にあった後ろ姿はなくなっていた。
どんな願いにするか考えても、突然過ぎて交通安全位しか出てこない。
それでは事故に遭遇するまでは願いが叶っていることになってしまうし…。
考えても埒が明かないので、仕方ないから定番でいこう、と決めてお賽銭を投げ入れる。
直前までこんなにごちゃごちゃ考えていても願いが叶うなら、ここの神様は相当な太っ腹だろう。
賽銭箱付近に親切に立てられた立て札に習って、二礼二拍手一礼でお願いをする。
―――運命の人に出逢えますように。
「そうそう、願い事を人に話すと叶わなくなるそうなので気を付けて下さいね」
報告は結果だけで結構です、となんの余韻もなくバッサリと言われた。
そういえば、あっきーは何を願ったのだろう。
人に話すどころか、願掛けしたことすら忘れていた俺の願いはそこまで遠くない日に思い出される。
願いが叶うまで、残り108日。
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