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「ゆずくんはここから~、あそこの橋の下までの担当ね~」
水嶋会長は学校周辺、ポチ先輩と吉川先輩は駅前、僕と一瀬先輩は河川敷の担当。
「怪我しないようにね~」と軍手を渡してくれた一瀬先輩は、ゴミ拾いをしながらみんなの様子を伺いに行った。
生徒会役員がそれぞれのエリアを巡回出来るように分散したようだ。
河川敷を見渡すと、春の暖かさで延び始めた草がそこかしこに生えている。
橋の下までって、結構あるなぁ。
このまま夏を迎えたら鬱蒼としてしまうだろうから真剣にやらなければ、とゴミ袋を片手に気合いを入れ直す。
「気合いが入ってるねぇ」
すぐ近くに居た同じように軍手をしてゴミ袋を持った男の人に笑いながら言われた。
――見られてたとか、恥ずかし過ぎて逃げたい。
「こ…こんにちは」
「こんにちは」
“地域との繋がり”を目的に掲げている活動なのを思い出して何とか挨拶をすると、にこやかな声が返ってきた。
「青いジャージということは一年生かな?」
「あ…はい、そうです」
「初々しいねぇ。 その歳でボランティアとは感心だ」
「頑張ろうね」と言う彼も学生に見える位には若いけど、ジャージではないところを見ると大学生とかだろうか。
初対面で聞くのも憚られ、そっと距離を取って草むしりに集中する。
一度集中し始めるとのめり込むのはあっという間で、少しずつ綺麗になっていくのが楽しくなってきた。
のめり込みついでに考え事にも没頭してしまう。
今日の夕飯のメニュー、ゴールデンウィークの予定、瑛士の試合はどうなっているのか。
そういえばこの間の数学の小テスト、翌日に返ってきた答案用紙は改心の出来である点数が書いてあったっけ。
一瀬先輩にお礼を言ったら、自分のことのように喜んで誉めてくれたのは嬉しかったな。
やっぱり何かお礼をしたいけど、僕にできることなんて何かあるだろうか。
できるなら喜んでもらって、あのニコニコとした笑顔でまた笑ってくれたらうれしいなぁ。
「楽しそうだねぇ」
ハッと気付くとあと少しで橋の下に辿り着きそうな所まで来ていた。
携帯を取り出して時間を見ると一時間以上没頭していたらしい。
「少し休憩して水分を取った方がいいんじゃないかい?」
「あっ…そう、ですね。 ありがとうございます」
「飲み物、持ってるかい? なければ分けてあげようか?」
「いえ、あの…ちゃんと持ってます」
さっき話し掛けて来た彼も同じペースで清掃していたようで、河川敷全体の雰囲気がスッキリしていた。
果てしなく思えた橋の下までも後一時間もあれば辿り着くだろう。
「なんだか雲行きが怪しくなってきたね」
言われて見上げると、先程までの青空は少し陰り始めていた。
雨の予報なんて出ていなかったはずだけど、さっさと終わらせて学校に戻った方が良いかもしれない。
5分足らずで休憩を切り上げ、早く終わらせるべく作業を再開する。
「あっ、降ってきたね」
ポツリ、と雨粒が落ちてきたと思ったら一気に雨足が強くなった。
あれからまだ10分も経っていないのに。
「橋の下に避難しようか」
「あっ、はいっ」
荷物とゴミ袋をまとめて慌てて走る。
それでもあっという間に大粒変わった雨のせいで、橋の下に着く頃にはびしょ濡れになっていた。
服は水を吸って重いし、髪は濡れて肌に貼り付いて気持ち悪い。
いつもは帳の役割をする前髪も流石に邪魔になって掻き分けてしまう。
「ゲリラ豪雨ってやつ――」
振り返った彼と目が合った。
しまった、と思った時にはもう遅かった。
背中を伝うのは水滴は雨なのか冷や汗なのか、ゾクリと冷たいものが流れる。
「君、綺麗な目をしてたんだねぇ」
ジャリっと足元の小石が音をたてる。
彼が近付いて来て、反射的に一歩下がった。
「なんで隠してたのかな?」
ジャリッ。
近付かれてまた一歩下がる。
「恥ずかしがり屋さんなのかな?」
ジャリッ。
「私に見せてくれたのは、特別?」
「ちがっ…―――」
ジャリッジャリッ…。
「さっきも楽しそうにしてたよねぇ?」
さっき? 楽しそう??
「口元しか見えてなかったけど、笑ってたよね?」
ジャリッ――。
「考え事っ…してたから…―――」
ずっも見られていた…?
楽しいことばかり考えてた。
夕飯のメニューも、瑛士が勝つことも、数学の小テストも、一瀬先輩のことも。
「こんな所で二人きりになるなんて…」
だから、忘れていたんだ。
僕の目は録なことをしないって。
でも、忘れちゃいけなかったんだ。
目を合わせたらいけないって。
――ジャリッ。
「誘ってるんだろ?」
「ちがっ…あっ…――」
トンッ、と背中が壁にぶつかる。
これ以上、下がれないことを悟る。
頭のてっぺんから足の方へ、血液がざぁっと降りていく音が聞こえた。
「追いかけっこはお仕舞いかな」
「や…だ… … …」
どうしよう。
どうしようどうしよう。
どうしようどうしようどう…したら…。
「――せん、ぱい」
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