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33 ───Side 煌來───
「それで、その男はどうしたの?」
クリーン活動終了後、庶務を除く生徒会メンバーは生徒会室に集まっていた。
生徒会の活動は会議は議事録、行事は広報誌や新聞を作成し全生徒が知ることができるようになっている。
とりわけ今回のように地域との関わりが強い行事等は、広報委員を通して来年度の新入生向けのアピールにも使われたりするため、ゴールデンウィーク明けを待たずに記録をまとめることにしていた。
「俺が追いましたよ」
「水嶋くんが?」
「えぇ」
心配そうに表情を曇らせたあーやんが、パソコン入力の手を止めて顔を上げる。
クリーン活動中、雲行きが怪しくなったタイミングで“切りがいい所で撤収するように”と連絡網が回っていた。
本降りになる直前にも採取撤収連絡が入ったけれど、数人に連絡が取れず生徒会と執行委員で直接探しに回っていたのだ。
「別の方を探していたのですが、河川敷を通った所で事件現場を目撃してしまいましてね。 橋の下に居たいっちーに“追いかけろ”ってガン飛ばされました」
「あっきー言い方~。 せめてアイコンタクトとか目配せって言ってよ~。 はい、こっちまとめたよ~」
河川敷周辺の活動状況をまとめた書類をあっきーのデスクに置く。
確かに橋の下から男が出て行った時、その先に丁度良くあっきーがいたから「お願い♡」って視線を送った。
ちょっと見つめただけなのにガン飛ばしただなんて失礼な。
「いえ、あれはそんな可愛いものではなかったですよ。 あなた相当怒ってましたよね? 美人が怒ると恐ろしいというのは本当ですね。 ――次、こっちもお願いします」
「あっきーに美人って言われちゃった~。 これ、学校新聞用? 予算じゃなくてお仕事カットだなんてあっきーはドSだねぇ~」
「褒め言葉として受け取っておきますよ」
言葉の応酬をしながらさりげなく今日の活動報告以外の仕事を振られた。
文句よりも先にその中身に注目してしまう。
学校新聞の作成は本来なら新聞部の活動の一環だ。
その作業が回ってくると言うことは、事実上公式の仕事を干されたということになる。
忠告したにも関わらず例の学校新聞の後も似たような内容の続報を出していたから、自業自得といえばそれまでだ。
このままだと廃部へ追い込まれる可能性も充分ありえる。
せっかく忠告してあげたのに、残念だ。
「ねぇ、ちょっと! 攻め二人でイチャイチャしてないで私にも分かるように話してくれない?」
「あーやんの日本語が一番分からないよ!」
「ポチは黙っててっ」
ドンマイ、ポチ。
お決まりの「あーやんひどい」を呟きながらしょんぼりする姿に、無いはずの尻尾が垂れ下がって見える。
「まぁそうですね、いっちーのアイコンタクトらしきものの意図は理解しましたので、ご自宅まで見送ってさしあげて、ちょっとお話を伺った後にしっかりご忠告申し上げてきたってだけですよ」
「…尾行して個人情報吐かせた後、ガッツリ脅しかけてきたのね」
さすがあっきー、惚れ惚れしちゃう手際の良さだ。
あっきーがしっかりご忠告申し上げて来たなら、彼が今後ゆずに近付いてくることはないだろう。
それどころか学校周辺を鬼門扱いしててもおかしくない。
「ねえねえ、亮! 個人情報は何のために吐かせたの?」
「“ちょっとお話を伺っただけ”ですよ。 ご丁寧に名刺も頂戴しましたし、何かの際にはご挨拶に伺いますねとお伝えして、丁重に見送って頂きましたから」
「ふう~ん?」
「どうやって名刺出させたのかは聞きたくもないけど“これ以上何かしたら会社に連絡して社会的に抹殺するぞ”って脅してきたってことよ」
「なるほどっ! 亮もあーやんもスゴいね!!」
馬鹿正直なポチは腹の探り合いとか言葉の裏を考えるのは苦手なんだろう。
いまいち分かってなさそうな様子にあーやんが意訳して伝えているけど、そっちの方が真実に近いんだろうな。
日本語って難しい。
「それで、高梨くんはどうしたの?」
「びしょ濡れだったしお家に帰したよ~」
「そんな状況で一人で帰したの!?」
「まさか~。 ちゃんと送り届けて~“お風呂から出たら連絡してね~”ってお願いしといた~」
先に帰ることを心苦しく思ってか、何度も振り返りながら家に入っていったゆず。
思い返すと痛みと甘さを含んだ複雑な心境になる。
あんな事があり、トラウマとも言える話をしたばかりで離れるのは心配だったけれど、風邪をひかせるわけにはいかないのでとにかく帰ってすぐに風呂に入るように言った。
ゆずの性格を思うと時間がたってから気まずくなるのは明白で、そのまま引きこもってしまわないように「心配だから連絡をしてほしい」と先手も打ってきた。
「…さすが一瀬くん。 抜かりないわね」
「え! 何が抜かりないの!?」
「ポチ、あなたよくその頭でうちの学校に入れましたね」
「さりげなくご自宅チェックして、連絡をする理由まで与えてきてるじゃない。 抜かりない上に甘々だわ」
「なるほどっ! 煌來もスゴいねっ!!」
ポチの褒め言葉は「スゴいねっ!」だけなのだろうか。
ボキャブラリーの貧困さに、よくこの学校に入れたなとあっきーと同じく感心してしまう。
――ピロンッ
「あ、ゆずだ」
「然り気無く呼び方が進化してるわ。 二人の間に何があったのか物凄く気になるところね…」
「いっちーが言うとは思えませんから、お得意の妄想で補ったらいかがです?」
「妄想なら既に何パターンかしたわっ! でも気になるじゃないっ! 目の前にこんな美味し…じゃなくて、素敵な二人がいるのよっ? これはもう、高梨くんと仲良くなるしか…」
何かごちゃごちゃ言われてる。
まぁいいか。
いつもより長文で届いたメッセージに返事を返すと、珍しくすぐに既読になった。
携帯はレシピ本代わりだと言っていたから用がないと見ないようで、すぐに既読になるのは本当に稀だ。
きっと、先に帰った事を気にしてソワソワしてるんだろうなと想像するとほっこりした気持ちになる。
そのまま何度かやり取りをした後、顔が緩むのを自覚しながらみんなに声をかけた。
「みんな明日の予定空いてる~?」
「特別な予定はありませんね」
「趣味に没頭する予定だったわ」
「バイト!」
「ポチ、残念~。 生徒会の親睦会やろうかと思ったのに~」
「えーーーー!!」
またしても「ひどい」と新たに「ずるい」を呟きながら項垂れるポチ。
やっぱり「ドンマイ(笑)」としか言えない。
「それで? 何をなさるんですか? ただの親睦会ではないんでしょう?」
「ふふっ。 ゆずがね、お弁当作ってくれるんだって~」
本格的に項垂れたポチが本日三度目の「ひどい」をつぶやきながら項垂れる。
だけど別のことで頭がいっぱいで、今度は「ドンマイ」を言ってあげることはできなかった。
――お弁当、何リクエストしようかな~。
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