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色々あったゴールデンウィークも明けて、あっという間にテスト期間がやってきた。
テスト期間中は授業時間が少し短くなり、いつもより早く帰れるようになっているけれど、短くなった分これでもかというほど詰め込んでくる教師のせいで正直余裕はない。
現在進行形で行われている数学の授業も例外ではなく、この短い時間に一体教科書何ページ分やるつもりか、というハイスピードで授業が進んでいる。
「えー…、今のところ、も、えー…、中間テストに出しますからね。 えー…、覚えておくように、はい」
いや、無理です。
その老体のどこからそんなスピードが、と問い質す暇もない勢いで進められたせいで、書き写し終わる前に黒板を消されてしまった。
いくらなんでもノートがなければテスト勉強もままならない。
チャイムが鳴った瞬間、斜め後ろを振り返ってSOSを出した。
「瑛士ぃ…」
「なんつー顔してんの、お前。 本当に数学だけは壊滅的にダメなのな」
「小野先生、口調と進むスピードが違いすぎて惑わされるんだもん…」
「オノセンじゃなくても数学はダメダメだろうが」
「マジで三年の担当に当たらなくて良かったな」と投げて寄越されたノートを有り難くお借りして、写し損ねた分を自分のノートに書き移す。
「三年の担当って前に言ってた先生?」
「そ。 柚みたいにボケーっとしてたらチョーク投げの良い的になりそうだろ?」
「今日はちゃんと聞いてたし書いてたよ!」
「はいはい。 今日は、な」
喋りながら書き写してはいるけど、写しただけで頭に入るはずもなく、試験範囲と言い渡された数式を見てだんだん呆然としてくる。
――こんなの何に使うんだよ…。
今時計算なんて電卓どころかスマホさえあればできてしまう。
計算式なんて知らなくてもG○ogle先生に聞けば何でも教えてくれるのに、変な記号だらけのこの式がこれから先の僕の人生に何をもたらしてくれるというのだろうか。
残念ながら僕の人生に直接何かをもたらしてはくれないかもしれないけど、差し当って中間テストに何点か分の点数はもたらしてくれるのは間違いないだろう。
となると、やはりこの何かの呪文の様な記号の羅列は覚えなくてはならないということだ。
「――瑛士、今日部活?」
「いや、テスト期間だし休み。 けどわりぃ。 買い物行く予定なんだわ…」
部活がない時しか買い物に行けないから、新しいバッシュを買いに行くのだと言われてしまえばどうしようもない。
それ以前に、瑛士は勉強はしないんだな。
「先輩、また教えてくれるかなぁ…」
「ん? 副会長様?」
「うん。 先輩もテスト勉強あるから無理だよね…」
数学の小テストの勉強をしている時、すごく分かりやすく教えてくれた。
あの時「いつでも聞きにおいで~」とは言ってくれたけど、さすがにタイミングが悪い気がする。
「さぁなー。 聞くだけ聞いてみれば?」
「――聞いたらダメって言わない気がする…」
「何、惚気?」
「?? 先輩優しいから断ったりしなさそうだなって…」
「惚気にしか聞こえねーよ。 ったく、すんなり懐いちまいやがって…」
「別に懐いてなんかないけど…」
「はいはい。 いいから連絡してみ?」
何だかよく分からないうちに勝手に僕のカバンを漁った瑛士が「ほら」っと携帯を渡してきた。
言われるがままにメッセージアプリを開き、探す必要もない位少ない友達一覧から先輩の名前を押す。
“せんぱい”と呼び掛けたメッセージは秒で既読になり、いつもの顔文字と一緒に一分もしないうちに返信が来た。
《煌來》は~い( ´ω` )/
《ゆず》あの、先輩は勉強しますか?
あれ。 何か聞き方間違えた気がする。
「お前、数学だけじゃなくて日本語もダメになったのか?」
「うるさいっ! …やっぱり変だよね? これ、どうやって消すの?」
「いや、もう届いてるだろ。 既読になってる」
「えっ!? ど、ど…どうしようっ!?」
ピロンッ
「あっ、なんか返ってきたっ!!」
通知音に反応して瑛士と二人でスマホを覗き込むと、聞きたかったこともその経緯も全てわかっているかのようなお返事が届いていた。
《煌來》先輩はゆずと一緒にお勉強しようかな?( ´ω` )
「――…すげーなこの人」
「だ…だよねっ!? 一瀬先輩、名探偵みたいだよねっ!!」
「あー、分かった分かった。 落ち着け? で、返事しねーの?」
「あっ! する…。 えっと…何て返そう…」
ピロンッ
《煌來》8時間目まであるから少し遅くなっちゃうけど、ゆずが良ければ生徒会室で先に始めてて?( ´ω` )
あ、これなら返せる。
《ゆず》はい
「なんか、お前の返事が“はい”だけになる理由が分かった気がする…」
「そう? 他に返事のしようがないだけだよ」
「…ソウデスネ」
中間テストまであと5日。
それまでに謎の呪文を解読できるようにならなければと憂鬱になった気分も、名探偵と暗号解読をすると思えば楽しみになってくる。
瑛士に呆れたというように溜め息を吐かれたので、ノートも書き終わったことだし、とりあえず睨んでおいた。
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