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 あっという間に球技大会当日。  雨でも降って中止にならないかと何度願ったか分からないままこの日を迎えた。  だが残念ながら雲一つない晴天と、程よく吹く風の気持ちいい絶好の球技大会日和がやってきた。  出場競技が決まった後、運動部やお祭り好きの一部の生徒は昼休みや放課後にボールを持ち出し自主練習をするという熱血っぷりを披露していた。  ただの学校行事とはいえ中々の盛り上がり具合だ。  残念ながら…というよりも完全に都合良く、球技大会の設営準備やスケジュール管理の仕事で生徒会は大忙し。  そのおかげで暇さえあれば生徒会室に入り浸っていて、結局一度も練習に出る機会がないまま今日に至った。  これで今日も逃げ切れれば完璧だ。  あれから僕の心臓は相変わらず。  事あるごとに締め付けられ、きゅっとなったりもやもやしたりと忙しい毎日を送っている。  一度変な病気だったらどうしようと瑛士に相談したら、物凄く残念なものを見るような目で「医者に行っても治らねぇよ」と言われた。  おまけに「恥ずかしい思いをするだけだから自分で考えろ」とアドバイスにもなっていない助言をくれた。  ――原因が分かっているなら教えてくれればいいのに。  考えれば考えるほど症状は悪化していき、抜け出せない負のループに陥ってしまった。  連日の思考のループとやりたくもない球技大会のための設営準備でまだ朝なのにもうオーバーヒート状態。  せっかく生徒会室に戻ってきたのにこれで終わりではなくここから一日がスタートするとか。  考えただけでも立上がる気力が失われていく。 「――も、やだ…」 「ゆず? どうした~?」  へなりと応接用のソファーの背凭れにしがみつくようにして項垂れていたら、上から先輩の声が降ってきた。  先輩に話しかけられているのに上を向く気にもなれない。  ソファーに擦り付けるように頭を振って「何でもない」と意思表示をする。  ――このソファー、固いし冷たい…。  上質な革で出来たソファーは座るには心地良いが、タオルや布団とは違い顔を埋めるには適さないようだ。 「むぅー…」 「クスッ…おバカさん。 どうしちゃったの~?」  苦笑した先輩がポンポンっと頭を叩くように撫でる。  ――最近、これ良くされるな…。  またしても心臓がきゅっとなるのを感じながら首を振ると、突然フワリとした浮遊感を感じた。 「――えっ」  と思った時には固く冷たかった感触そこにはなく、温かく柔らかい物の上に座っていた。 「ゆーず?」  下からコツンと額を合わせるように覗き込まれ、温かく柔らかい物の正体に気付かされる。  下からコツンと額を合わせるように覗き込まれ、至近距離から見つめられると、きゅーっとどころか破裂しそうな程心臓が跳ね上がった。  ――まただ。  頭を振るのも離れるのも忘れて固まっていると、合わせていた額が離れ代わりに先輩の肩へと収められた。  至近距離からの視線から解放されたことで、少しだけ心臓の締め付けが弱まる。 「どうした~? 疲れちゃった~?」  今はまだHR前で、体育館や倉庫の鍵を開け必要な道具をグラウンドや各競技のコート周りへ運んできただけ。  疲れるようなことは何もしていなくて、むしろこれから始まる本番の方が気が重い。  フリフリと再び振った頭は固くも冷たくもない感触に包まれた。 「競技大会、気が重い~?」  それだけではないけど、それも間違いではないのでコクリと頷く。  位置的には見えていないはずなのにそのほんの少しの動きで僕の答えがわかったのか、小さな子供をあやすように背中を撫でられた。 「ふふっ。 じゃあ、ここでずっとこうしてようか~」  ここで?  ずっと…?  このまま…? 「だ…ダメですっ!!」  急に現実が見え、ガバリっと勢いよく顔を上げる。  目の前には先輩の顔があって、また少し心臓がぎゅっとなっけど何とかやり過ごす。 「え~? 俺はゆずとこうしてたいけどな~」 「ダメ、です…」  生徒会副会長ともあろう人が堂々とおサボり宣言なんて許されるわけがない。  いくら気が重いとはいえクラスみんながあれだけ盛り上がりを見せているのだ、参加しないという選択肢は存在しないことも分かっている。  ――それに、せっかく結城くんが誘ってくれたのに不参加だなんて申し訳なさすぎる。 「クスッ。 真面目だねぇ~」 「ごめん、なさい。 ちょっと疲れてたみたいです」 「ん。 いいよ~」  なでなでと大きな手が甘やかすように頭を撫で、更に甘い一言をくれる。 「じゃあ、ゆずが最後まで頑張れたら先輩がご褒美をあげよう~」 「――ご褒美、ですか?」  にっこり笑って囁かれたのは甘い甘いお誘い。 「最後まで頑張ったら~、フルーツたっぷりのクレープのお店に連れていってあげるよ~」  先輩は僕を操るのが本当に上手いと思う。

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